共同研究報告書
研究区分 | 研究集会 |
研究課題 |
湖沼メタン酸化細菌叢とメタン栄養食物網のグローバルパターン解明 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 京大生態研 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 奥田昇 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
藤林恵 | 東北大院工学研究科 | 助教 |
2 |
伊藤雅之 | 京大東南アジア研 | 助教 |
3 |
中野伸一 | 京大生態研センター | 教授 |
4 |
陀安一郎 | 京大生態研センター | 准教授 |
5 |
三木健 | 臺灣大海洋研究所 | 准教授 |
6 |
小林由紀 | 中央研究院環境変遷セ | 研究員 |
7 |
福井学 | 北大低温研 | |
8 |
小島久弥 | 北大低温研 |
研究集会開催期間 | 平成 25 年 7 月 16 日 〜 平成 25 年 7 月 17 日 |
研究目的 | 湖沼は、高い温室効果をもつメタンの主要な自然放出源である。湖底から放出される溶存メタンを好気・嫌気的に同化する微生物機能群を「メタン酸化細菌」とよぶ。メタン酸化細菌を起点とした「メタン栄養食物網」は、メタン由来有機炭素を湖沼生態系の炭素循環に組み込むことによって、メタンの大気放出を抑制する「天然の炭素リサイクルシステム」とみなすことができる。メタン酸化細菌の研究は、寒帯・温帯湖沼で精力的に進められているものの、全球的な分子系統地理および生態系機能に関する知見は限定的である。本研究集会は、亜熱帯湖沼におけるメタン酸化細菌叢およびメタン栄養食物網に関する理解を深めることを目的とする。 |
|
|
研究内容・成果 | 本研究集会は、平成25年7月16-17日に北海道大学低温科学研究所にて開催され、15名が参加した。まず、共同研究代表者(奥田)が、湖沼におけるメタン酸化細菌の生態系機能について解説した。全球的なメタン循環を理解する上で熱帯・亜熱帯湖沼のメタン酸化細菌研究が不足している背景を踏まえて、現在、台北の亜熱帯人造湖「翡翠水庫」において進行中のメタン栄養食物網に関する日台共同研究の進捗状況を研究分担者らが報告した。 最初に、伊藤雅之氏が、翡翠水庫の溶存メタン濃度及びその炭素安定同位体比の季節・鉛直プロファイルについて紹介した。水深が100m以上ある本湖は、冬季の鉛直循環が不完全なため深底層が貧酸素化する部分循環湖に分類される。深底層の溶存メタン濃度は周年高く、その炭素同位体比が非常に低いシグナルを示すことから、嫌気環境下でメタン生成活性が高く維持されていると結論された。一方、酸化還元境界層以浅では溶存メタン濃度が急激に減衰することから、メタン酸化細菌の関与が示唆された。 続いて、小島久弥氏が、翡翠水庫のメタン酸化細菌叢の分子系統解析の結果を報告した。寒帯や温帯ではType Iのメタン酸化細菌が卓越するのに対し、本湖ではType IIが約半数を占めた。この解析結果は、既出の研究報告とも一致しており、緯度(あるいは温度)特異的な群集構造決定メカニズムの存在が示唆された。また、本湖深底層において、嫌気環境下で脱窒に由来する硝酸-酸素を電子受容体としてメタン酸化する独自の代謝経路をもつNC10とよばれる系統群が観察された。本系統群は、下水汚泥や湖底泥中から検出される嫌気的メタン酸化細菌であり、本研究は湖沼水柱での存在を確認した初めての事例となる。さらに、小林由紀氏は、FISH法を用いて本湖におけるメタン酸化細菌叢の季節・鉛直プロファイルを解析するとともに、微生物ループにおける原生動物を介した栄養相互作用の重要性を示唆する予備実験データを提示した。 代表者は、炭素・窒素安定同位体分析を用いて、動物プランクトン生産におけるメタン酸化細菌由来炭素の相対寄与率の季節的・経年的変化について報告した。温暖化による冬季鉛直混合の弱体化や台風頻発による夏季の成層破壊がメタン栄養食物網に及ぼす影響が示唆されるとともに、動物プランクトンの生態化学量論的プロセスを介して窒素循環に影響する可能性も示唆された。また、藤林恵氏は、メタン酸化細菌特異的な脂肪酸をバイオマーカーとして、メタン栄養食物網を定量化する脂肪酸分析手法を提案した。 最後に、三木健氏より、湖沼のメタン循環を理解するための数理モデルの基本的枠組みが提示され、モデル構築に用いる変数とそれに必要な調査データの取得について意見が交わされた。これらの進捗報告に基づき、今後の共同研究計画策定に資する総合討論が実施された。 |
|
|
研究集会参加人数 | 15 人 |