共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

極限環境下における細胞膜局所構造変化のその場観察
新規・継続の別 継続(平成24年度から)
研究代表者/所属 埼玉大学
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 吉川洋史

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松崎賢寿 埼玉大学 博士後期課程学生

2

佐崎元 北大低温研

研究目的 本研究の目的は、低温を含む極限環境下での細胞膜構造を観察するための、新規細胞実験プラットフォームの共同開発を行うことにある。近年申請者は、様々な機能性高分子や脂質分子を用いて、細胞外の環境をインビトロでモデル化し、外部環境に対する細胞の応答ダイナミクスを評価してきた。また、共同研究者である北大低温研の佐崎元教授は、レーザー微分干渉法などの光顕微法を駆使して、低温や高圧力などの極限環境下における結晶化のその場観察に成功してきた。本共同研究では、これら技術を組み合わせ、光反射・散乱による新規細胞観察手法の開発、さらにはそのシステムを用いた様々な環境下における細胞膜構造の高分解能観察に挑む。
  
研究内容・成果 これまで我々は、細胞―ガラス界面の高分解能観察に用いられている反射干渉顕微法に、研究分担者である佐崎が有するハイスループット・共焦点システムを組み合わせ、細胞―ゲル界面の高コントラスト観察システムを開発した。一般に,軟組織の硬さ環境のモデル化には、ハイドロゲルが広く用いられているが、ハイドロゲル材料は屈折率が水に極めて近く、細胞―ゲル界面の観察が困難であるという問題があった。一方、本システムでは、ハイスループット・共焦点光学系を採用することで、細胞―ゲル界面の高コントラスト・ナノイメージングが可能である。我々は本システムを用いて、がん細胞の接着面がゲルの硬さに対して単調増加することを定量的に見出し、がん細胞の初期の接着において外場の硬さが重要な役割を果たすことを解明した。本成果は今年度にJournal of Physical Chemistry Lettersに原著論文をして発表した。さらに本年度は、本システムにより遊走性の異なるがん細胞のイメージングを行い、ゲルへの接着様式に顕著な違いがあることを見出した。さらに、光干渉法とラマン分光法を組み合わせた新規細胞観察手法も開発した。昨年度に構築した光干渉法は、反射光に基づく手法であり、原理的にはラマン光などの非弾性散乱光を含んでいるはずである。ラマン光は分子内振動に由来しているため、細胞を構成する分子の情報を得ることができる。実際細胞と基板界面の測定を行ったところ、タンパク質や脂質に由来すると思われるラマン散乱ピークを検出することに成功した。今後は細胞の様々な局所構造を対象に、光干渉イメージングとラマン散乱測定を行い、細胞-外場間の接着を物理化学的に理解するための基礎知見を得たいと考えている。
  
成果となる論文・学会発表等 T. Matsuzaki, G. Sazaki, H. Y. Yoshikawa et al., High Contrast Visualization of Cell-Hydrogel Contact by Advanced Interferometric Optical Microscopy, Journal of Physical Chemistry Letters, 5 (2014) 253–257.