共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

酸化物薄膜の表面成長に関する検討
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 名大工
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 吉田隆

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

一野祐亮 名大エコトピア研究所 准教授

2

鶴田彰宏 名大工 博士課程後期課程学生

3

三浦峻 名大工 博士課程前期課程学生

4

古川 義純 北大低温研

研究目的 気相成長法により作製されるエピタキシャル薄膜の成長は、基板上から始まり順番に積み重なって堆積するように成長していく。よって、作製したエピタキシャル薄膜の表面は成長過程を観察できる唯一の場所であり、表面から得られる情報は結晶成長を考える上で、非常に有益であると考えられる。
以上の内容を踏まえ、酸化物系超伝導SmBCO薄膜中BHOナノロッド(人工ピン)の成長メカニズムについて検討するが、母相であるSmBCOの成長にも影響を受けていると考えられる。そこで、Tsの違いによる無添加SmBCO薄膜の表面形態の変化を観察し、その成長機構に関して検討を行った。
(a) Ts = 800◦C、(b) Ts = 850◦Cで作製したPLD-SmBCO薄膜の表面DFM像 スパイラル成長したPLD-SmBCO薄膜の高倍率DFM像及び断面プロファイル 表面DFM像解析により算出したPLD-及び低温成膜法(LTG)-SmBCO薄膜のλ0のTs依存性
研究内容・成果 通常のPLD法で作製したSmBCO(PLD-SmBCO)薄膜の作製条件を示す。LAO(001)単結晶基板上にTsを800 ~ 850◦Cで、膜厚350 nm程度で作製した。図1 (a) Ts = 800◦C、(b) Ts = 850◦Cで作製したPLD-SmBCO薄膜の表面DFM像を示す。1 (a)から、比較的低Tsで作製した場合にはa軸配向粒が生成し、かつSmBCO薄膜は二次元核成長が支配的であることがわかる。一方、図1 (b)に示すように、比較的高Tsで作製した場合にはa軸配向粒は観察されず、かつSmBCO薄膜はスパイラル成長が支配的であることがわかる。また図2にスパイラル成長したPLD-SmBCO薄膜の高倍率DFM像及び断面プロファイルを示す。図2よりPLD-SmBCO薄膜のスパイラル成長の成長ステップの高さはSmBCO格子の1 unit cellの高さであることが確認された。
図3に表面DFM像解析により算出したPLD-及び低温成膜法(LTG)-SmBCO薄膜のλ0のTs依存性を示す。680 ~ 750◦CではTsの増加に従い、λ0は緩やかに増大しているが、750◦C以上ではTsの増加に従い、λ0は急激に増大していることがわかる。
T. NishinagaとH. J. Scheelはスパイラル成長したYBCO薄膜のテラス幅から過飽和比αsとTsの関係を、BCF理論から求まる以下の式により近似した。また、B. Damらはスパッタリング法を用いて作製したYBCO薄膜の表面形態観察から、スパイラル成長と二次元核成長は共存して成長することを報告しており、またそれらのλ0はほぼ同程度であることを報告している。αsはTsの低下に伴い急激に低下し、Ts = 800◦C以上では比較的緩やかに低下し、Ts = 850◦Cではαsは15程度であった。M. Iwataらは、MOCVD法を用いて作製したYBCO薄膜のTsの違いによるαsの変化を(1)、及び(2)式により算出し、報告している。その論文内において、YBCO薄膜のαsは750 ~ 800◦Cで急激に変化し、それ以上の温度ではαsの値が数10程度になると述べている。この報告は、本研究の実験結果と一致する。また、T. NishinagaらによるとPVD法を用いてTs = 700◦Cで作製されたYBCO薄膜のαsの値は1013程度であり、一方、LPE法を用いて作製したYBCO薄膜においては1.07程度であると報告している。以上を踏まえると、本研究で作製したSmBCO薄膜のαsの値はTsが高くなるに伴い、LPE法で作製したYBCO薄膜のαsの値に近づいていることが明らかになった。また、その結果からPLD法を用いて比較的高温で作製したSmBCO薄膜の表面上には疑似液体層(Quasi Liquid Layer: QLL)が存在すると推察される。

(a) Ts = 800◦C、(b) Ts = 850◦Cで作製したPLD-SmBCO薄膜の表面DFM像 スパイラル成長したPLD-SmBCO薄膜の高倍率DFM像及び断面プロファイル 表面DFM像解析により算出したPLD-及び低温成膜法(LTG)-SmBCO薄膜のλ0のTs依存性
成果となる論文・学会発表等