共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

氷天体の衝突圧密・クレーター形成過程に関する実験的研究
新規・継続の別 継続(平成24年度から)
研究代表者/所属 神戸大学自然科学系先端融合研究環
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 保井みなみ

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

荒川政彦 神戸大学大学院理学研究科 教授

2

鈴木絢子 宇宙科学研究所 研究員

3

田中秀和 北海道大学低温科学研究所 准教授

4

山本哲生 神戸大学惑星科学研究センター 特命教授

研究目的 氷衛星の進化過程では,様々な衝突現象が起こる.進化初期段階では,太陽距離に応じた同サイズの多孔質氷微惑星が存在し,様々な衝突角度を持って衝突する.そして,衝突に伴う圧密により氷微惑星内部の密度が変化する.進化後期段階では,原始衛星同士の複数回衝突により衛星内部の強度が変化する.このような衝突過程を経た微惑星,原始衛星はその後の衝突進化に様々な影響を及ぼす.本研究では,氷微惑星の衝突現象を模擬した同サイズ氷球の斜め衝突実験,衝突圧密の効果を調べる動的圧密実験,さらに原始氷衛星の衝突現象を模擬した事前衝突を受けた氷の衝突破壊実験を行った.
  
研究内容・成果 氷衛星の衝突圧密による内部密度変化を調べるため,多孔質雪を用いた動的圧密実験を行った.標的には空隙率70,80%の雪を用いて,アクリル筒に高さ120mmとなるように詰めた.衝突時の圧密の様子を観察するため,高さ20mm毎に青く染色した雪を敷いた.雪標的上部にポリカーボネイト,ポリアセタール,アルミ円盤(ピストン)を設置し,弾性ボールをピストンに衝突させて圧密させた.弾丸加速には縦型一段式軽ガス銃を用いて,衝突速度は5~116m/sとした.衝突の様子は高速度ビデオカメラで撮影し,圧縮中の標的密度の時間変化を調べた.その結果,標的全体の平均最終密度はピストンの運動量で決まり,ピストン種類や初期空隙率に依存しないことがわかった.また,密度の深さ分布の時間変化を調べた結果,衝突応力50kPa以下では深さと共に密度が減少するが,50kPa以上では上層から順に最密充填密度まで一気に密度が上昇した.さらに,アルミピストンの場合は,衝突した瞬間に最上層がほぼ最密充填密度まで上昇し,それ以下の深さでは時間と共に緩やかにしかもほぼ同じ密度上昇率で圧密が進行することがわかった.
氷微惑星の衝突破壊現象を明らかにするため,同サイズ氷球の斜め衝突実験を行った.弾丸,標的には直径30mmの氷球(空隙率0%)を用いて,衝突後にどちらの試料の破片かを区別するために染色した水を凍らせて作成した.実験は縦型一段式軽ガス銃を用いて,衝突速度は4~160m/s,衝突角度は0~80度とした.実験の様子は高速度ビデオカメラで撮影し,弾丸,標的共に回収後,破片質量を計測した.その結果,衝突角度が大きくなるほど弾丸または標的の最大破片質量が増加するが,その増加率は衝突速度が変化してもほぼ同じになった.また,衝突速度の法線方向の速度成分を使ったエネルギー密度(換算質量を用いた系の運動エネルギーを弾丸と標的の総質量で割った値)を用いて規格化最大破片質量(実験後の最大破片質量を元の弾丸または標的質量で規格化した値)との関係を調べた結果,正面衝突(衝突角度0度)の実験データと斜め衝突の実験データがほぼ一致し,規格化最大破片質量に対する衝突速度と衝突角度の依存性を1つの経験式で表すことができた.
事前衝突を経験した氷衛星の衝突破壊強度を調べるため,同一氷試料を用いた複数回衝突実験を行った.標的には市販の氷ブロックを用いた.弾丸は氷円柱で、各衝突回で異なる面に衝突させた.縦型一段式軽ガス銃を用いて弾丸を加速させ,衝突速度は84~502m/sとした.実験後,衝突破片を回収し,破片サイズ分布を調べた.その結果,衝突破壊強度は各標的に与えられる積算エネルギー密度で記述することができ,先行研究の一回衝突の氷の衝突破壊強度と一致した.また,最小破片個数と衝突面端点から飛び出す破片の飛翔速度は,各衝突回の個々のエネルギー密度で決まることがわかった.
  
成果となる論文・学会発表等 M. Yasui, R. Hayama, M. Arakawa. Impact strength of small icy bodies that experienced multiple collisions. Icarus, in press.
R. Hayama, M. Arakawa, M. Yasui. Experimental study on the impact strength of icy bodies damaged by multiple collisions. CD8, Kona, Hawaii, June 2013.
保井みなみ,坂本花菜,荒川政彦,雪の動的圧密実験:氷微惑星の低速度衝突圧密への応用,日本地球惑星科学連合2013年大会,幕張,2013年5月
荒川政彦,斉田美香,保井みなみ,雪・氷の二層構造標的上へのクレーター形成実験,日本地球惑星科学連合2013年大会,幕張,2013年5月
羽山遼,荒川政彦,保井みなみ,嶌生有理,複数回衝突を受けた氷天体の衝突破壊強度に関する実験的研究,日本地球惑星科学連合2013年大会,幕張,2013年5月
保井みなみ,羽山遼,荒川政彦,事前衝突を経験した多結晶氷の衝突破壊条件に関する実験的研究:氷天体の蓄積ダメージの見積もり,日本惑星科学会2013年度秋季講演会,石垣島,2013年11月