共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

チョウ類の環境適応機構の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山口大院医学系(理学系)
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 山中明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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落合正則 北大低温研

研究目的 チョウ類が示す新規な表現型可塑性を探索するとともに、チョウ類の体色や形態を変化させる神経内分泌調節因子の作用機作の詳細な解析する。また、表現型可塑性からチョウ類の進化過程を考察していくことを目的とした。今回は、特に、シジミチョウ科のベニシジミ成虫の新規表現型可塑性について解析した。
  
研究内容・成果 ベニシジミ(Lycaena phlaeas daimio Seitz)の成虫は、春型と夏型の季節型をもち、春型の翅は赤色が強く、夏型の翅は黒色が強くなる。この季節型発現を調節する環境要因は、幼虫期の日長と温度であることが知られている。
本研究では、ベニシジミの成虫の、季節型以外の新規な表現型多型が認められるかどうかについて検討した。孵化後から、長日条件(LD16:8)23℃および短日条件(SD8:16)16℃下で飼育し、羽化した成虫の外部形態を、実体顕微鏡下およびデジタルカメラで撮影した画像を用いて比較した。その結果、LD23成虫とSD16成虫の頭部、翅部(後翅腹側)および脚部に存在する毛状鱗粉の数および長さは、LD23成虫よりもSD16成虫で増加していることが見てとれた。毛状鱗粉の構造をより詳細に調べるため、LD23成虫とSD16成虫の脚に生じる毛状鱗粉を走査型電子顕微鏡で観察したところ、脚の毛状鱗粉は、脚表面に存在する鱗粉と同様な縞状の平行線や空所が観察されたことから、毛状鱗粉は鱗粉と似た構造であることがわかった。毛状鱗粉の数および長さをより詳細に調べるため、LD23成虫とSD16成虫の前・中・後脚の腿節部に生じる毛状鱗粉の本数と長さを計測した。本数は、腿節部に生じるすべての毛状鱗粉を計測し、長さは、脚からランダムに抜いた毛状鱗粉の長さを計測した上でそれらの平均の長さで比較した。その結果、毛状鱗粉の本数と長さは、LD23成虫よりSD16成虫において増加した。毛状鱗粉形成に対する日長と温度の影響を調べるため、幼虫を長日(LD16:8)16℃, 30℃, 35℃条件下および短日(SD8:16)12℃, 23℃条件下で飼育し、各条件下で羽化した成虫の各脚の毛状鱗粉の本数と長さを比較した。長日23・30・35成虫は短日12・16・23成虫よりも少ない本数であったが、長日16成虫の本数は、短日成虫並みに多かった。一方、毛状鱗粉の長さは、同じ飼育条件下の雌雄間に差はなく、長日成虫よりも短日成虫で長かった。さらに、温度が低いほど長さが長くなる傾向もみられた。また、毛状鱗粉には、白色と黒色が存在するが、雌の長日成虫において黒色毛状鱗粉の本数が著しく減少した。以上の結果より、ベニシジミ成虫の脚の毛状鱗粉形成は、幼虫期の温度よりも日長の影響を強く受けることがわかった。
  
成果となる論文・学会発表等 益本祐希・村上実菜子・山中 明・北沢千里・落合正則, ベニシジミ成虫の表現型可塑性について, 平成25年度日本応用動物昆虫学会中国支部・日本昆虫学会中国支部合同例会(山口大学), 2013.10.11.
山中 明・益本祐希・落合正則・北沢千里, ベニシジミ成虫の毛状鱗粉形成に及ぼす日長と温度の影響, 第58回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨集, p.59, 2014, 第58回日本応用動物昆虫学会大会(高知大学), 2014.3.26-28.