共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

降雪中の有機化合物の輸送メカニズムの解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山梨県環境科学研究所
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 山本真也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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河村公隆 北大低温研 教授

研究目的  アジア大陸は、北西太平洋に長距離大気輸送される陸起源有機物の主要な起源域となっているが、その輸送過程の詳細については未だ不明な点が多い。こうした中,申請者は,陸上植物ワックスに由来する有機化合物の内,特に脂肪酸の安定水素同位体比が、大気微粒子中の植物起源有機物の起源を推定する上で、極めて有用なトレーサーであることを提案してきた。そこで本研究では、富士山の降雪中の有機化合物の分子組成,安定炭素・水素同位体比分析を行い、その特徴から、東アジアから富士山へと輸送される陸起源有機エアロゾルの輸送メカニズムを明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果  本研究では、平成25年1月と2月に富士北麓の標高1045mで雪試料を降雪イベント毎に採取し、試料中の有機化合物の分子組成を調べた。また、富士北麓の標高2304mと2245mでも、積雪試料の採取を行い、陸上植物起源有機化合物の分子組成とその安定炭素(δ13C)・水素同位体比(δD)の測定を行った。
 富士山の雪試料中には、いずれもC23からC33の奇数炭素数のノルマルアルカンが主要な化合物として含まれており、陸上植物からの寄与が示唆された。ただし、高標高地域(2304, 2245m)の積雪試料中では、植物由来のノルマルアルカンが、降雪試料(~0.7 μg/L)に比べ、2倍以上多く含まれており(1.7から3.8 μg/L)、降雪後の乾性沈着の影響が考えられる。一方、低標高地域(1045m)で採取された試料の一部では、陸上植物起源のアルカンに加え、炭素優位性のないC20からC24のノルマルアルカン(~0.2 μg/L)が含まれており、化石燃料の使用に伴う人為起源の有機化合物の影響が見られた。積雪試料中のC23-C31ノルマルアルカンのδ13C・δD値は、それぞれ–31.8‰から–31.5‰、–210‰から–191‰であった。
 一方、脂肪酸の分子組成は、低標高地域の降雪試料中では、C16とC18が最も卓越する化合物であり、次いでC22, C24が卓越するバイモーダル分布を示した。これに対して、高標高地域の積雪試料では、C22, C24とC32が卓越するバイモーダルな分布を示した。雪試料中の植物起源有機化合物濃度は、ノルマルアルカン同様、降雪試料に比べ(~0.4 μg/L)、高標高地域の積雪試料で2倍以上の高い値が得られた(~4.5 μg/L)。また、高標高地域の雪試料中に含まれていた陸上植物由来のC22, C24脂肪酸とC32脂肪酸のδD値を測定したところ、それぞれ–212から–195‰、–179‰から–169‰であり、特に前者においては、ほぼ同緯度・同標高に位置する立山の雪試料中のC22-C28脂肪酸(平均–143‰)に比べて、50‰以上低い値を示すことがわかった。一般に、東アジアの植生のδD値は、高緯度・高標高域ほど低い値を示すことから、この富士山ー立山間での脂肪酸のδD値の大きな違いは、起源植生の違いを反映している可能性が高い。
  
成果となる論文・学会発表等