共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷域森林生態系における環境変動に伴う炭素循環変動の解明
新規・継続の別 継続(平成24年度から)
研究代表者/所属 広島大学大学院生物圏科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 戸田求

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原登志彦 北大低温研

研究目的 本研究では,北方森林生態系の環境変動に対する応答機構の解明を目的とした数値モデル解析を実施した。ここでの研究対象域は,北方林といわれている森林の南限に位置する北海道の代表的な亜寒帯林と冷温帯と亜寒帯の境界に生育域を拡げる森林であった。これらの森林で行われた大気ー森林間のエネルギー・炭素交換、植生動態の野外観測および生態系レベルの光合成および呼吸量を評価することが出来る生態系モデルを本研究手法として利用し、統計的手法を用いて二つの異なるタイプの森林の環境変動に対する環境応答を評価した。

  
研究内容・成果 これまでの共同研究(平成24年度)では,二つの森林で行われた大気ー森林間の炭素循環変動に関する野外調査(2004年から2008年の5年間)のデータ解析の結果をまとめてきた(Toda et al., 2011a; Toda et al, 2011b)。これらの結果,二つの森林はほぼ同様の気候状況下に置かれているが,植生の炭素収支が二つの間で大きく異なることが分かった。しかし、どのような要因がこれらの炭素収支に影響を及ぼしていたのかが未解明であった。そこで、今回は生態系モデルとベイズ統計手法を用いて、生態系の炭素動態に大きな影響を及ぼすと考えられる植物の生理的特性を反映するパラメータ(ここでは生理活性変数とする)が観測期間中に環境とどのような相互作用の結果として変化していたのかを探るための逆推定解析を行った。
 その結果,2005年の大型台風の到来により植生葉群の構造的被害を受けた遷移初期の森林では、翌年以降の葉量の回復に伴い葉の生理的な活性が回復し、その活性度はその後も暫く持続することが分かった。その結果,生態系全体の炭素吸収量が台風以前に比べて大きくなることを導いた。また、様々な環境要因と生理活性変数との間にはあまり顕著な対応関係は見られなかった。このことから,葉の活性は環境要因による影響ではなく,台風撹乱後の植物による自立的な機能が生じた結果であることがわかった。一方で,台風撹乱による構造的被害があまり大きくなかった遷移後期の森林においては,生理的活性変数の変化は遷移初期の森林が示したような傾向を示さず、環境要因、特に光や大気の乾燥度を示す飽差に影響を受けて年々変動している傾向を示した。このことから,同じ強度の台風撹乱を受けた森林の環境変動に対する応答には撹乱による被害の程度によって異なることが分かり、撹乱被害が大きい場合には環境変動の影響よりも植物の自立的な機能が働き、その結果炭素吸収能が決定されたことが明らかとなった。
 現在,この成果を論文に取りまとめている過程にある(下記[3])。
  
成果となる論文・学会発表等 [1] 戸田求. 書籍「地球環境変動の生態学」(分担執筆),第5章, 2014.
[2] 戸田求,横沢正幸,原登志彦 学会刊行物(日本気象学会)2014(査読中)
[3] Toda et al., Oecologia (In preparation)