共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

山岳積雪地域における水・物質循環の比較研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 鈴木啓助

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石井吉之 北大低温研

研究目的  山岳積雪地域は、温暖化や酸性降水などの地球環境変動に対して極めて敏感に反応すると考えられる。山岳積雪地域における水循環および物質循環に対して、それら地球規模の環境変動が、如何に影響するのかを解明することが本研究の目的である。山岳積雪地域に冬期間に積雪として大量の水が天然のダムとなって蓄えられ、暖候期に融けて流下することにより、山岳積雪地域の雪は、水資源としてや植物の生育環境にとっても重要な役割を果たす。地球環境変動によって山岳積雪地域の雪の質や量がどのような影響を受けるのかを議論することが必要である。
  
研究内容・成果  今年度は、中部山岳地域における降積雪の近年の変動傾向に関する研究を実施した。その結果、次のことが明らかとなった。
 海岸近くの標高の低い地点(高田、富山、金沢)では、年累積降雪深は統計的に有意な減少傾向を示すが、それ以外の内陸部の8 地点(富士山、軽井沢、河口湖、諏訪、松本、高山、飯田、長野、甲府)では統計的に有意な変動傾向を示さない。また、年最大積雪深の長期変動は、金沢と高田で統計的に有意な減少傾向を示すが、富士山では統計的に有意な増加傾向を示す。海岸近くの標高の低い3 地点(高田、富山、金沢)では、1 月の月平均気温の高低によって累積降雪深が明瞭に増減するが、軽井沢、河口湖、松本では、累積降雪深の増減と1 月の月平均気温との間には関連が認められない。
 中部山岳地域の気象官署における観測データを用いて、冬季気温と降積雪量の長期変動傾向について検討した結果、海岸近くの標高の低い地点では、冬季気温の上昇傾向は疑いなく、降積雪量の減少も明瞭である。しかしながら、標高約1000 m 以上の地点では、近年の冬季気温の傾向は不明確になる。また、内陸部の観測地点では降積雪量も統計的に有意な変動傾向を示さない。ある程度標高が高い、つまり気温が低い地点では、冬季気温の変動と降雪量の相関係数が小さくなり、単純に「温暖化すると降雪量が少なくなる」とはならない。さらに、標高の高い地点では近年の温暖化傾向すら統計的に検出できないのである。
  
成果となる論文・学会発表等 山中 勤・脇山義史・鈴木啓助(2013):中部山岳地域における融雪流出特性の標高依存性.地学雑誌,122,682-693.

脇山義史・牧野裕紀・山中 勤・鈴木啓助(2013):中部山岳地域における降水のd-excessの時空間変動.地学雑誌,122,666-681.

倉元隆之・鈴木大地・佐々木明彦・鈴木啓助(2013):中部山岳地域の降雪に含まれる化学成分濃度の空間分布.地学雑誌,122,651-665.

上野健一・磯野純平・今泉文寿・井波明宏・金井隆治・鈴木啓助・小林 元・玉川一郎・斎藤 琢・近藤裕昭(2013):大学間連携事業を通じた中部山岳域の気象データアーカイブ.地学雑誌,122,638-650.

鈴木啓助(2013):中部山岳地域における気象観測の現状とその意義.地学雑誌,122,553-570.