共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北方林の更新維持機構の生態学的・遺伝学的解析
新規・継続の別 継続(平成17年度から)
研究代表者/所属 群馬大学社会情報学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 西村尚之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鈴木智之 東大院農学生命科学研究科附属演習林  助教

2

戸丸信弘 名大院生命農学研究科 教授

3

原 登志彦 北大低温研

4

隅田明洋 北大低温研

5

小野清美 北大低温研

6

長谷川 成明 北大低温研

研究目的 北方圏の環境変動に対する北方林の役割を科学的に説明するために,北方林の更新維持機構を生態学的・遺伝学的に明らかにすることは重要である.平成17年度から継続している本研究課題では,低温研の実験地である大雪山・層雲峡付近(東大雪)の老齢林分内の固定試験地において低温研と群馬大学・名古屋大学等との共同により森林モニタリング調査・樹木群集動態解析が過去14年間行われてきた。そこで,この大面積長期モニタリングデータから,北方林の更新動態現象に及ぼす影響を定量的に解析する必要がある.さらに,近年の気候変動に影響されつつある動態現象を検出するためにはより多くのデータによる新たな解析手法を検討する必要がある.
  
研究内容・成果 当該年度においては北海道東大雪層雲峡付近に成立する原生状態の北方常緑針葉樹林(優占樹種:トドマツ,エゾマツ,アカエゾマツ,ダケカンバ)に設置した面積2ha調査区の樹高≥0.3mの幹を対象に毎木調査を実施した.また,低温研共同研究として2000年,2004年,2008年に行われた過去3回の調査と今年度の調査から14年間の毎木データベースを作成した.また,我々の研究グループが行っている独自な方法である目視による5m×5mの400メッシュの林冠調査を各年の毎木調査に合わせて行った.さらに,昨年2012年低温研共同研究で実施した調査区中央1ha部分の441交点の全天写真による林内入射光量データを2013年の毎木調査の解析に使用した.本年度の報告では2000〜2013の14年間の樹高≥0.5mの樹木の個体群動態と成長動態の解析から得られた成果をまとめた.
2ha調査区の樹高≥0.5mの幹数は調査期間中4784-4926本で,トドマツの出現本数が最も多く(相対密度53%),ついでエゾマツ(31%),アカエゾマツ(9%)の順であった.また,樹高1.3m未満の個体を稚樹,樹高1.3m以上の個体を林冠木と下層木の3つの階層に区別して出現本数を比べると,稚樹ではトドマツ,林冠木ではエゾマツとアカエゾマツの割合が高かった.林冠木の平均胸高直径はトドマツ38cmに対してアカエゾマツとエゾマツではいずれも53cmであった.どの期間の死亡率・新規加入率でもアカエゾマツが最も低く,エゾマツが最も高かった.3樹種の階層別の死亡率パターンとして稚樹の死亡率(アカエゾマツと他2種)と林冠木の死亡率(トドマツと他2種)に明確な違いがあった.また,どの階層でもアカエゾマツの幹直径の相対成長速度は他種に比べて低く,エゾマツとトドマツの相対成長速度は下層と林冠層で順位が入れ替わる傾向があった.林冠木と下層木の個体群動態や成長動態の傾向は,過去の共同研究の成果である3樹種の樹木競争関係(Nishimura et al., 2010)から説明できた.そこで,一般化線形モデルにより稚樹個体の成長に関して解析を行った.各個体の樹高成長量を応答変数とし,説明変数には個体サイズ,林冠状態,マイクロサイト,混みあい程度(上部下層木と稚樹間)を用いた.その結果,倒木に集中しがちな樹高1.3m未満の稚樹間では目立った競争はなかった,一方,エゾマツとトドマツの稚樹死亡率や成長速度には,光環境を決定する要因(林冠状態や直上下層木混みあい程度)が重要であり,アカエゾマツでは種生態的な光に対する応答特性が重要であることがわかった.以上から,北方常緑針葉樹林を構成する樹種の共存メカニズムとして,樹種の組み合わせにより互いの樹種の生活史パターンと光資源をめぐる一方向的競争関係との重要性のバランスが異なっていることが解明された.
  
成果となる論文・学会発表等 西村尚之・原登志彦・隅田明洋・小野清美・長谷川成明・ 加藤京子・鳥丸猛,北海道東大雪の北方針葉樹林における13年間の樹木群集動態,日本生態学会61回大会,2014年3月,広島