共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

氷結晶の組織と変形構造の解析による氷床の内部構造に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北海道大学高等教育推進機構
研究代表者/職名 特任准教授
研究代表者/氏名 宮本淳

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

飯塚芳徳 北大低温研 助教

研究目的 本研究課題の目的は、氷床コアに観察される特殊な結晶組織や結晶粒の配列の発達過程を氷試料の変形実験を通じて明らかにし、氷床の内部構造と変形特性を理解することである。実験装置として、低温科学研究所技術部協力のもと開発された、単結晶氷育成装置、薄片氷試料の単純せん断変形装置、および既設されている申請者が開発した半自動化されたX線ラウエ法による氷結晶組織解析装置を用い、変形実験中の氷試料の結晶方位を高精度に測定し、氷床氷の結晶方位発達過程を議論する。
  
研究内容・成果 1.単結晶氷薄片試料の単純せん断変形実験
 これまでの研究により、氷床深部においてa軸方位が同じ方向に揃うことが明らかになっている。この原因を調べるために行った単結晶氷の一軸圧縮試験からは、再結晶した結晶粒のa軸方位が揃うことが示されている。さらに詳細に、a軸方位の発達過程を明らかにするために、薄片試料の単純せん断変形装置を低温科学研究所技術部の協力で開発し、変形中の結晶方位をX線装置により高精度に測定した。用いた試料は、厚さ5 mm、長さ50 mm、高さ50 mm程度の薄片試料であり、高さ方向とc軸方位が一致する。単純せん断方向とc軸が直行するように、また、ひとつのa軸方位が、単純せん断方向に一致するように試料を装置に取り付け、温度 -15 ℃、応力0.09 MPaで変形実験を行った。変形曲線は、遷移クリープから定常クリープを描き、20時間以降急速なひずみ速度の加速を示した。この加速は、3次クリープと呼ばれ、通常再結晶が起こり、結晶組織が変化することによって生じる。また、試料が不均一変形し、所的に応力が増大した時にも生じる。しかし、本実験では、最終ひずみ量55%に至るまで試料は均一に変形しており、再結晶粒の発生も確認できず、変形前後の結晶c軸、a軸方位に変化はなかった。このことより、ひとつのa軸方位が、単純せん断方向に一致するように変形させた場合、c軸の周りに回転して、a軸方位が発達することはなく、結晶組織の変化が全く起こらないまま変形できることがわかる。ひずみ速度の加速の原因は不明だが、今後a軸方位と単純せん断方向を変化させて実験を行い、さらに考察を行う必要がある。

2.NEEMコアの単純せん断変形実験
 グリーランド氷床で掘削されたNEEMコア(全長2540 m)を用いた薄片試料の単純せん断変形実験を行った。変形実験に用いた部分の深度は、2488.75 mである。薄片試料の大きさは、厚さ5 mm、長さ35 mm、高さ50 mm程度であり、高さ方向とコア軸方向が一致する。変形前のc軸方位分布は弱い単極大型である。試料は、単純せん断方向と試料のコア軸方向が直行するように、装置に取り付けた。温度 -15 ℃、応力0.09 MPaで変形実験を開始したが、ひずみ速度が遅いため、約100時間後に荷重を増し、応力0.12 MPaで実験を継続した。最終ひずみ量約4%において、詳細な結晶方位変化を追跡することができた2つの結晶粒の測定結果をまとめると次の通りである。
1)元のc軸方位がコア軸から9.7度ほど、単純せん断方向と直行する面内でずれていた結晶粒のc軸、a軸方位は、変形後にほとんど変化していなかった。
2)元のc軸方位がコア軸から12.9度ほど、単純せん断方向と平行な面内でずれていた結晶粒のc軸方位は、元のコア軸方向に回転した。a軸方位については、c軸の周りでa軸方位が回転するような変化は確認することができなかった。
以上より、a軸の発達は結晶粒の回転によるものでないことが示唆される。
  
成果となる論文・学会発表等 村上拓哉、堀 彰、宮本淳、飯塚芳徳.圧縮変形した単結晶氷の転位密度測定.北海道の雪氷.32.112-113.2013.
村上拓哉、宮本淳、飯塚芳徳、堀 彰.圧縮変形した単結晶氷の転位密度測定.2013年度日本雪氷学会北海道支部研究発表会、2013年5月18日.
村上拓哉、堀彰、宮本淳、東信彦、飯塚芳徳.静水圧下で圧縮した多結晶氷の転位密度の測定.雪氷研究大会(北見)、2013年9月19日.
堀 彰、宮本淳、大野浩、飯塚芳徳、本山秀明.X線回折法による南極ドームふじ底面氷の研究.第4回極域科学シンポジウム(東京)、2013年11月15日.