共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

原始惑星系円盤における低温物質進化と惑星形成の相互作用
新規・継続の別 継続(平成22年度から)
研究代表者/所属 名市大・システム
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 三浦均

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

中本泰史 東工大・地惑 准教授

2

長沢真樹子 東工大・地惑 准教授

3

木村勇気 東北大・理 助教

4

田中秀和 北大低温研

5

田中今日子 北大低温研

6

山本哲生 北大低温研

研究目的 原始太陽系星雲では,太陽から遠方では氷を中心とする固体物質が集積することで氷微惑星が形成されたと考えられている。しかし,氷微惑星の軌道が原始木星の重力などの影響で円軌道から外れると,円運動するガス星雲との間に大きな相対速度が生じ,バウショックが生じる。バウショックの発生は,氷微惑星の加熱・蒸発を引き起こして氷微惑星形成を阻害すると同時に,ガス星雲内に微小な氷ダストを供給する。本申請課題では,バウショックによって引き起こされる氷微惑星の蒸発過程,及び,蒸発によって生じた水蒸気の冷却過程に着目し,過飽和水蒸気からの核形成による微結晶形成過程の研究を行なった。
氷微惑星の軌道進化。木星による平均運動共鳴,円盤ガス抵抗,円盤重力による永年共鳴の効果を考慮。  
研究内容・成果 今年度は,主に「氷微惑星の力学的進化とガス円盤の相互作用」に関するテーマについて,天体力学に基づいた理論的な基礎研究を行なった。また,これらの成果を元に,北大低温研にて研究打ち合わせを行ない,原始太陽系星雲における低温物質の進化について議論した。
氷微惑星の軌道は,主に木星重力の影響によって円軌道から歪み,楕円軌道化する。氷微惑星の軌道が楕円軌道化すると,円運動する円盤ガスとの相互作用によって氷微惑星が加熱され,その成長に大きな影響が及ぼされる(昨年度の報告書を参照)。だが,氷微惑星の軌道がどの程度歪むかについては,様々な要素を加味して検討する必要がある。従来の研究では,木星と氷微惑星の平均運動共鳴(木星と氷微惑星の公転周期が簡単な整数比になること)の影響が考慮されてきた。木星の軌道を現在と同じだと考えると,2:1の共鳴が中心星から~ 3.3 AUの位置に,3:1の共鳴が~ 2.5 AUの位置に現れる。氷微惑星はガス円盤からの抵抗を受けて中心星に向かって落下していくが,その途中で2:1の平均運動共鳴に捕まって離心率が増加する。その後はガス抵抗によって離心率が急減するため,2:1の共鳴位置において氷微惑星の離心率が最大となっていた。本研究では,従来は考慮されてなかった円盤ガスの自己重力による永年共鳴の影響を考慮した結果,2:1の平均運動共鳴を通り過ぎたあとも永年共鳴の影響によって離心率が急減せず,3:1の平均運動共鳴の位置に至ってさらに離心率が大きくなることが示された。これにより,中心星からの距離~ 2.0 – 2.5 AUという円盤ガス密度が高い領域において,離心率~ 0.5 – 0.6,ガス円盤に対して10 km/s以上の相対速度が生じることが分かった。また,上記の結果は,木星質量が現在の~ 1/10であっても引き起こされることが分かった。
氷微惑星の楕円軌道化は,円盤ガスとの相互作用によって強いバウショックを引き起こすことで,固体物質の進化に大きな影響を及ぼす。バウショックで加熱された円盤ガスが氷微惑星表面を温めることで蒸発を引き起こし,氷微惑星の成長を阻害する(昨年度の報告書を参照)。蒸発したガスはやがて冷えて再凝縮し,氷微粒子となって円盤ガスに放出される。本研究において,核生成理論に基づき蒸発したガスからの再凝縮過程について調べたところ,ミクロンサイズ以下の微小な氷結晶粒子が大量に発生することが分かった。さらに,バウショックは円盤ガスに存在する氷物質の加熱を引き起こし,氷物質の蒸発による円盤ガス化学組成の変化や,氷に含まれている有機分子の化学進化にも影響を及ぼし得る。今回,天体力学的研究によって得られた成果を,初期太陽系ガス円盤中の低温物質の進化に関して応用することは,惑星形成と物質進化の関連を明らかにする上で極めて意義深い。
氷微惑星の軌道進化。木星による平均運動共鳴,円盤ガス抵抗,円盤重力による永年共鳴の効果を考慮。  
成果となる論文・学会発表等 T. Yamamoto, T. Kadono, and K. Wada, An examination of collisional growth of silicate dust in protoplanetary disks, Astrophysical Journal Letters 783, L36 (2014)
K. K. Tanaka, T. Yamamoto, H. Tanaka, H. Miura, M. Nagasawa, and T. Nakamoto, Evaporation of icy planetesimals due to bow shocks, Astrophysical Journal 764, 120 (2013)
Y. Kimura, K. K. Tanaka, H. Miura, K. Tsukamoto, Direct observation of the homogeneous nucleation of manganese in the vapor phase and determination of surface free energy and sticking coefficient, Crystal Growth & Design 12, 3278-3284 (2012)
H. Miura, K. K. Tanaka, T. Yamamoto, T. Nakamoto, J. Yamada, K. Tsukamoto, and J. Nozawa, Formation of cosmic crystals in highly supersaturated silicate vapor produced by planetesimal bow shocks, Astrophys. J. 719, 642 (2010)