共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温域における不飽和炭化水素鎖を含む脂質系の相分離と表面構造
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪大学理学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院理学研究科 助教

2

佐崎 元 北大低温研 教授

研究目的 不飽和炭化水素鎖を含む脂質系は、不飽和鎖のみではなく、一般に飽和・不飽和鎖の混合状態である。しかし、その混合状態の構造や温度変化に伴う構造形成過程についてはほとんど明らかになっていない。本研究では飽和鎖・不飽和鎖を含む脂質集合系を低温域まで冷却したときの集合状態の変化についてX線小角散乱や光学顕微鏡観察等の比較的大きな領域を観察する手法と、X線広角散乱や赤外・ラマン分光法のような分子形態や小領域の分子レベルでの構造情報を得ることができる手法とを組み合わせて調査を行う。特に飽和・不飽和炭化水素鎖組成が、低温域の脂質集合体の組織構造にどのような変化をもたらすかについて調べる。
  
研究内容・成果  不飽和炭化水素鎖のみをアシル基として含むトリアシルグリセロール(TAG)、そして、飽和炭化水素鎖のみを含むトリアシルグリセロールの二成分からなる系の相挙動および構造の温度依存性について、温度依存性を顕微鏡観察とラマン分光法を主要な手段として用いて調べた。今回は単一酸型不飽和TAGとしては、近年その生体への影響が注目されている体表的なtrans-一価不飽和脂肪酸エライジン酸が3つアシル基として含まれているトリエライジン(EEE)を用いた。また飽和単一酸型TAGとしては、エライジン酸と同数の炭素原子を含む飽和脂肪酸であるステアリン酸からなるトリステアリン(SSS)を用いた。
 このEEE とSSSの混合比を変えて、その相挙動を観察した。とくEEE が多い場合を中心として調べ、EEEとSSSの混合比が8:2ないしは9:1のときに、独特な構造形成過程が行われることが見出された。EEEとSSSの混合試料では、最初に微結晶が発生し、しばらく液体と微結晶との共存状態が続くが、途中から急激に結晶化が進行し全体が固化する。最初に発生する微結晶は高融点成分であるSSSと見なされるが、単一成分の場合に通常観測できる球晶構造は観察されない。また結晶が生じる温度から準安定相であるα相であると推測される。一方、残った液体部分は低融点であるEEEであり、後半で急激に進行する固化は、このEEEの結晶化であると推測できる。
 このEEEの固化は、通常では全く結晶化が進行しない温度域で生じる、結晶化の進行が著しく早いという点で、これまでTGAの系において観察されたことのない非常に独特なものである。現在、最初にSSSの準安定相αが生じ、そのαを不均一核として、あるいはそれから転移した安定相βを不均一核としたEEEの安定相βの結晶化が進行する過程であると推測している。ラマンスペクトルでは、EEEがβ相であるということを支持する結果を得た。
 今後は、この過程をより詳しくより詳しく解析し、発生する結晶相におけるEEEとSSSの組成、結晶相の同定、そして結晶過程のおける構造形成機構を解析していく予定である。

 
  
成果となる論文・学会発表等