共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成に関わる微生物群の特定
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山梨大学生命環境学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 岩田智也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小島久弥 北大低温研

2

福井学 北大低温研

研究目的 湖沼からのメタン放出は、自然界からの総放出量の6-16%にも達している。従来、湖沼のメタンは底泥の嫌気環境におけるメタン菌の代謝に由来するものと考えられてきた。しかし、多くの湖沼で好気環境にメタン極大が出現することが明らかとなってきた。メタン極大の形成には浮遊性細菌の代謝が関与している可能性が浮上しているものの、未だ具体的な微生物群の特定には至っていない。本研究では、好気的メタン極大が出現する湖を対象に、浮遊性細菌の群集構造を分子生態学的手法により定量化する。これによって、メタン極大の形成に関わる微生物群を明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果 調査は山梨県の西湖で実施した。2013年3月〜12月の期間に野外調査を行い、湖心部から沿岸部にかけたトランゼクトに沿って溶存メタン濃度の鉛直分布とその季節変動を観測した。また、3月および7月の水深7.5mで採取した湖水試料については、浮遊性細菌を対象とした16S RNA遺伝子のクローニングを行い、得られた49クローンの塩基配列を決定して分類群の出現頻度を比較した。さらに、クローニングの結果をもとに好気的メタン生成に関与していると思われる浮遊性細菌をリストアップし、FISH法によりそれらを標的としたプローブを用いて細胞密度を計数し、メタン極大と標的微生物の分布との対応関係を評価した。
 調査の結果、水温が上昇する6月頃より水温躍層付近でメタン極大の形成が始まり、成層構造が強化される8〜9月にメタン濃度がピークに達し、躍層が衰退する初冬にメタン極大も消滅することが明らかとなった。また、このメタン極大の季節消長は、湖底や大気、沿岸域、流入河川からのメタンフラックスによるものではなかった。一方、溶存酸素濃度とメタンの変動がよく一致しており、光合成活性と連動してメタンが生成している可能性を示唆していた。
 そこで、メタン極大形成前の3月と極大形成開始期にあたる7月の浮遊性細菌叢をクローニングにより比較した。その結果、Polynucleobacter、LimnohabitansおよびシアノバクテリアのGpIIaに属する微生物群が7月に有意に増加していることが明らかになった。とくに、GpIIaにはメタン生成基質のひとつと想定されるホスホン酸のC-P結合を開裂させる酵素を有するSynecococcus属が含まれている。このことから、Synecococcusを標的としたCARD-FISH解析を行って溶存メタンと細胞密度を比較したところ、溶存メタンが上昇する季節・深度と細胞密度の増加パターンが時間的・空間的に一致していた。このことから、Synecococcusに属するグループが好気的メタン極大の形成に関与しているものと考えられた。
 とくに、真核藻類の春期ブルーミングが終了し温度成層が発達する夏期に、表水層から水温躍層で栄養塩が枯渇し、それとともにSynecococcusが卓越し、さらにメタンが生成されていた。このことから、貧栄養環境に適したSynecococcusが水温躍層付近でメチルホスホン酸を代謝することで、メタンが生成している可能性が高いと考えられた。これらの成果は、今後海外学術誌などで発表していく予定である。
  
成果となる論文・学会発表等