共同研究報告書
研究区分 | 萌芽研究 |
研究課題 |
アイスコア中の有機物トレーサー分析による過去の大気環境の復元 |
新規・継続の別 | 萌芽(2年目/全3年) |
研究代表者/所属 | 北大低温研 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 関宰 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
本山秀明 | 極地研 | 教授 |
2 |
東久美子 | 極地研 | 准教授 |
3 |
阿部彩子 | 東大大気海洋研 | 准教授 |
4 |
河村公隆 | 北大低温研 | 教授 |
5 |
白岩孝行 | 北大低温研 | 准教授 |
6 |
的場澄人 | 北大低温研 | 助教 |
研究目的 | アイスコアは高い時間分解能を有し、過去の環境情報、特に大気環境情報を解読できる優れた古環境アーカイブである。本研究は、これまで当グループが実施してきた有機エアロゾル研究と有機化合物トレーサー(バイオマーカー等)を用いた古気候復元の手法をアイスコア研究に応用することで、これまで無機化学中心であったアイスコア研究に新しい流れを導入し、アイスコアの研究に新しい展開をもたらす事を目的とする。また確立した手法を北半球各地のアイスコアに適用し,これまでほとんど明らかになっていない過去の気候変動に伴う有機エアロゾルの変遷を明らかにする。 |
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研究内容・成果 | 北半球の3地点から採取されたアイスコア試料(サイトJ・グリーンランド,ウシュコフスキー・カムチャツカ半島,オーロラピーク・アラスカ山脈)の分析および得られた時系列データの解析を行なった。昨年度に引き続きアラスカアイスコアの各種有機化合物の分析を進め,本試料に関し予定していた全ての分析を終了させた。また新たにカムチャツカアイスコア試料の分析にも着手し,分析の前処理作業及び,有機化合物の分析を行なった。アラスカアイスコアに関しては,より精密な年代モデルを構築するため,酸素同位体比分析をさらに進め(的場),北半球アイスコア記録の過去数百年の時空間的なデータセットを構築した。 得られたデータセットを解析し,アイスコア中の有機物トレーサーの環境指標としての評価検討を行なった。特に各アイスコアに記録された各有機物トレーサー(バイオマス燃焼トレーサー,生物起源2次有機エアロゾルトレーサー,陸起源有機物トレーサー,海洋プランクトン起源トレーサー,水溶性の低分子有機化合物等)の濃度を規定している要因について考察を行なった。全てのアイスコアにおいて,有機化合物トレーサー濃度記録は,それぞれ起源が異なるにも関わらず,数十年スケールでは基本的に同様の変動パターンを示すことが見いだされた(図1)。特に、グリーンランドとカムチャツカの記録は夏の北極振動もしくは北極圏の地表気温に同調した変化を示し,北極振動の正偏差で気温が高い時期に濃度が増大する傾向を示した。北極振動は極域と中緯度の気圧が相反して変動する現象で,偏西風の位置や強さに変化をもたらすことで、北半球中高緯度の気温や大気循環に大きな影響を及ぼす。このことから、カムチャツカとグリーンランドのアイスコアに記録された数十年スケールの有機エアロゾル濃度変動は,エアロゾルの起源域から大気への放出量と共に,北極振動に伴う輸送・沈着量の変化を反映している可能性が高い。 一方で,アラスカアイスコアの有機物トレーサー濃度変化に関しては,特にどの気候振動とも高い相関が得られなかった。このことから,アラスカアイスコア中の有機エアロゾル濃度は大気循環のシフトに関連した輸送・沈着量の変化の影響はむしろ小さく,エアロゾルの起源域からの放出量を概ね反映しているかもしれない。もしくはアラスカにおいてはローカルな大気循環も含め,複数の十年規模気候変動の影響が複雑に作用している可能性も考えられ,今の所その主因を特定できていない。このようにアイスコア中の有機物濃度を支配する要因はサイトによって異なることが示され,アイスコアから過去の環境情報を読み解くには目的に合わせたサイトの選定が重要であることが本研究によって明らかになった。 またグリーンランドとカムチャツカのアイスコアから得られた成果の一部をまとめ,論文の執筆を行ない,論文2報を国際雑誌に投稿した。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
学会発表 [1] 関宰,北半球山岳アイスコアの有機物分析, 大気・雪氷間の物質循環と極域への物質輸送に関する研究小集会, 国立極地研究所,2013年10月. [2] 関宰,北半球のアイスコアから復元した過去数百年間の有機エアロゾル濃度の変動, 研究集会「極域における過去の気候・環境変動」,低温科学研究所, 2014年3月予定. [3] Ambarich Pokhrel,Climate signals recorded in dicarboxylic acids, ketocarboxylic acids and a-dicarbonyls from the Kamchatka-Peninsula ice core (1500-1996): Implications for climate change,研究集会「極域における過去の気候・環境変動」,低温科学研究所, 2014年3月予定. 論文(投稿中の論文のみ) [1] Pingqing Fu, Kimitaka Kawamura, Osamu Seki, Yusuke Izawa & Takayuki Shiraiwa, Enhanced ice core concentrations of isoprene-SOA tracers during the preindustrial period, submitted to Nature Geoscience. [2] Osamu Seki, Kimitaka Kawamura, Yoshiyuki Fujii & James Bendle, Ice-core biomarker records reveal a dust amplifier for solar forcing on climate, submitted to Science. |