共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

火星北極冠上のステップ地形の発達に関する実験的研究
新規・継続の別 継続(平成23年度から)
研究代表者/所属 大阪工業大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 横川美和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

泉典洋 北海道大学工学研究科 教授

2

山田朋人 北海道大学工学研究科 准教授

3

Ralf Greve 北大低温研 教授

研究目的 火星北極冠には螺旋状のステップ地形が発達しており,近年その詳細な内部構造が明らかになった.内部構造は発達過程の記録であり,この記録を読み解く事によって,これらの構造を作った営力(風など)の火星史を通じた変動を復元する事が可能になるかもしれない.しかし,これらの内部構造の発達過程についてはまだ何もわかっていない.
 申請者らは,この内部構造が深海の海底谷沿いに発達するサイクリックステップのそれと酷似する事に着目した.両者の共通点を鍵として,アナログ実験を行い,火星の北極冠上のステップ地形の発達過程の解明を目指す.
  
研究内容・成果 昨年度の実験では,氷の温度〜周囲気体の温度(室温)<流体の温度という温度分布であった.実際の現象は,氷で冷やされて重くなった大気が滑降風となるので,温度の関係は氷<流体<周囲気体となっているはずである.そこで,本年度は,新たに水路と流体を冷やす冷却装置をつけた装置を作成し,実験を行った.実験装置は,アクリル製の水路と水路冷却装置および流体を循環させるタンクとポンプ,流体用のヒーター・冷却装置からなる.水路は長さ180cm,幅2cm,深さ20cm で,上流端から30cmの地点と下流端に高さ8cm の堰があり,この間に水を張って凍らせる事によって,厚さ8cm,長さ150cm の氷床を作ることができる.水路底を氷点以下に保つ為に,水路の下に冷却装置を設置した.これは,長さ184cm,高さ8cm,幅16cm の塩化ビニール樹脂製のタンクで,この中に恒温循環装置から-17℃程度に冷やしたエチルアルコールを循環させた.これによりタンク表面は-10℃程度に冷やされる.水路をこの上に設置した.氷の上を流す流体(水)はヘッドタンクから水路に導かれる.この途中のノズルで流量を調節する.流体はまず水路上端部分の貯水部に溜まり,貯水部から溢れた流体が氷床上を流れる.その後流体は下部タンクに入り,ポンプでヘッドタンクに戻る.液温を目標温度(本実験では0.1~0.4℃)に保つために,ヘッドタンク内に投げ込み式型冷却器とサーモスタット付のヒーターを設置した.氷と識別しやすくするため,流体を食紅(本実験ではメロングリーン)で着色した.氷を作成する際に,水路の壁面に直径0.3mmの熱電対を貼り付けて,氷の温度の分布を測定できるようにした.
 今回の実験では侵食卓越型の実験となったが,(1)フルード数が1より大きい場合にステップ地形が形成される,(2)ステップの代表波長は初期平坦床水深が深いほど長い,(3)一般にステップは下流端から形成されて上流へ発達していく,事がわかった.
 一方,理論解析は,下面から冷却される氷の上に上面から暖められる水が流れている状況(氷<流体<周囲気体)という温度分布で,水の流れを表すNavie-Stokes方程式,流れと氷の中の熱の移動を表す熱伝導方程式,流れー氷界面の移動を表す熱フラックスバランスの方程式を用いて線形安定解析を行い,界面の安定性を明らかにした.その結果,不安定領域が存在し,その領域では界面波が上流へ進行する事が明らかになった.これは実験結果と調和的である.
 今後の課題は,サイクリックステップが上流進行しながら累重する条件を探る事である.
  
成果となる論文・学会発表等 <論文>
横川美和・泉典洋・内藤健介・山田朋人・Greve Ralf, 氷上のステップ地形に関する実験的研究, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.69, I_1129-I_1134, 2013
泉典洋・横川美和・内藤健介, 流れ-氷界面に発生する境界不安定現象, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.69, I_1117-I_1122, 2013
<学会発表>
Miwa Yokokawa, Norihiro Izumi, Kensuke Naito, Hiroki Shimizu, Tomohito Yamada, and Ralf Greve Analog experiments on the formation of spiral troughs on the North Polar Ice cap of Mars : Layered deposits emplaced by cyclic steps on ice, AGU 2012 Fall Meeting,2012
横川美和・泉典洋・内藤健介・山田朋人・Greve Ralf, 氷上のステップ地形に関する実験的研究, 第57回水工学講演会, 2013.
泉典洋・横川美和・内藤健介, 流れ-氷界面に発生する境界不安定現象, 第57回水工学講演会, 2013.