共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
低温氷の光励起ダイナミックス |
新規・継続の別 | 継続(平成21年度から) |
研究代表者/所属 | 京都大学工学研究科 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 薮下彰啓 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
川崎昌博 | 総合地球環境学研究所 | 客員教授 |
2 |
渡部直樹 | 北大低温研 | |
3 |
羽馬哲也 | 北大低温研 |
研究目的 | 星間分子雲の氷星間塵や極域の雪氷中には過酸化水素(H2O2)が存在している。オリオン座の馬頭星雲が周りの天体より黒く見えることからも分かるように、氷星間塵は光を吸収している。また、極域の夏季には太陽光が降り注ぎ雪氷は光を吸収している。氷星間塵や雪氷中では過酸化水素の光化学反応が進行しており、宇宙化学や大気化学においてそのプロセスを知ることが必要である。しかしながら、過酸化水素氷を作る実験的な困難さから研究はほとんど行われていない。そこで、高濃度の過酸化水素氷を作成可能な低温研の装置を用い、真空紫外光もしくは紫外光による過酸化水素氷の光化学反応過程を明らかにすることを目的として研究を行った。 |
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研究内容・成果 | 実験装置は過酸化水素氷を作成するための試料基板が設置された超高真空メインチャンバーと水素原子源チャンバーにより構成されている。ヘリウム冷凍機により試料基板を45Kまで冷却した。この試料基板に酸素分子と水素原子を同時照射することにより過酸化水素氷を作成した。この方法を用いることで、過酸化水素水溶液を用いた蒸着法と比べ、かなり高濃度の過酸化水素氷を作成することができる。酸素原子はリークバルブを用いてメインチャンバー内に導入した。ガラス管に水素分子を導入し、マイクロ波誘起プラズマにより発生させた水素原子を試料基板に照射した。酸素分子と水素原子を照射中のチャンバー内圧は10-7 torr程度である。この方法により約1時間で、20 ML程度のアモルファス過酸化水素氷を作成する事ができる。この氷を約175 Kでアニールすると結晶化過酸化水素氷となる。このようにして作成した氷薄膜に、真空紫外光実験の場合は、入射角83度で30 W の重水素ランプを照射した。フラックスは5.9×10^13 photons cm-2s-1である。紫外光実験の場合は、入射角0度で60 W のXe/Hgランプを照射した。試料組成はフーリエ変換型赤外線分光計(FTIR)によってその場観測した。 過酸化水素氷に真空紫外光を照射すると、過酸化水素氷が減少し、水氷が増加した。過酸化水素氷の真空紫外光分解断面積を以下のように求めた。 過酸化水素氷の種類(厚み) 光照射温度(K) 真空紫外光分解断面積(cm-2) アモルファス氷(10 ML) 45 1.7 ×10-17 結晶氷(20 ML) 45 1.0 ×10-17 アモルファス氷(20 ML) 100 8.0 ×10-18 アモルファス氷(20 ML) 45 1.1 ×10-17 アモルファス氷(20 ML) 10 1.4 ×10-17 本研究により以下の結果が得られた。 1. 光分解断面積に有意な差がある。 2. 光分解断面積を求める際、10 MLの時は全体をフィットすることができたが、20 MLの時はできなかった。20 MLの場合、H2Oの生成が飽和した光子量を超えるあたりでフィットできなくなる傾向がある。このあたりの光子量までは、真空紫外光によるH2O2の光分解が優位であったが、 H2Oの量が増えてくるにつれて、H2Oの光分解によるH2O2の生成反応の寄与が増加してきたために、フィットできなくなった可能性がある。 3. 10 MLの場合、 H2O2はほとんど全て光分解してしまう。20 MLの場合は、同光子量照射では、若干H2O2が残っている。 4. 10 MLのときは20 MLのときの約半分の光子量でH2O生成が飽和に達している。 5. H2O2の真空紫外光分解によってH2Oが生成するが、 H2O2の全てがH2Oになるわけではない。 6. 過酸化水素氷に紫外光を約3時間照射しても、ほとんど変化は起こらなかった。 初期的な実験結果が得られた。今後さらに追加実験を行い光化学反応過程を明らかにする。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
Photochemical reaction processes during vacuum-ultraviolet irradiation of water ice A. Yabushita, T. Hama, M. Kawasaki Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews, in press |