共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低気圧の発達・維持過程における水温前線の影響
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大地球環境
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 谷本陽一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

下山宏 北大低温研 助教

2

森章一 北大低温研 技官

3

新堀邦夫 北大低温研 技官

4

中坪俊一 北大低温研 技官

研究目的 海洋上の大気観測は多くの制約により空白域となっているため,海洋上の気温・湿度構造や雲・降水過程が低気圧の発達に伴い海洋からどのような影響を受け変質しているかは明らかでない.このため,低気圧の発達やそれに伴う雲・降水過程の理解は大気の内部力学過程に力点が置かれ,海洋からの熱・水蒸気の供給が与える外部強制力の影響に関する理解は十分ではない.本研究では,島嶼と航空機における洋上大気の観測を実施するために,航空機搭載の観測機器を新たに開発する.この機器を活用した高頻度の観測成果に基づき,海洋上における低気圧の発達に伴う海洋から大気場への影響を明らかにすることを目的とする.
  
研究内容・成果 本研究では,ヘリコプターの上昇・下降を利用した大気下層の鉛直モニタリングシステムの開発を進めている.これまで,機体の振動によりデータの記録における欠損が頻繁に生じたが,本年度は記録形態を改良することによって,データの取得率を上げることに成功した.また,耐火・耐熱の対策にも取り組んだ.
観測期間としては間欠的ではあるものの,これまで得られた直接観測データから気温と湿度の鉛直プロファイルを作成し,それらの妥当性を気象庁のアメダスデータやメソ解析データセット(以下,M-ANAL)との比較を通して検証した.
 飛行時間が20分を越す区間では,巡行高度である920 hPa面(およそ高度800 m)までの気温と湿度の鉛直プロファイルが得られる.御蔵島に向けて八丈島から上昇する際にはほぼ一定の上昇速度で巡行高度に達するため,鉛直方向に連続した測定記録がほぼ安定的に得られていた.そこで,現段階では,離陸後から巡行高度に達するまでの直接観測の記録に基づき,気温と湿度の鉛直プロファイルデータセットを作成した.
冬季の寒気の吹き出しは,伊豆諸島周辺でも総観規模(数日から1週間の時間規模)で変動している.八丈島空港の気象庁アメダスの10分毎の記録から,八丈島空港離陸時に最も近い時刻の気温データを抽出し,鉛直プロファイルデータセットの離陸時(つまり,高度 0 m)の気温データと比較した.直接観測データはアメダスの記録に対して1度程度の正のバイアスを持つものの,同時相関係数は0.98を示した.直接観測データは滑走路上にあるヘリコプターの機体内部で測定されており,観測環境の整ったアメダスの測定を考慮すれば,1度程度のバイアスは許容できる系統誤差と考えられる.
 M-ANALから,八丈島近傍の格子点,直接観測の記録に最も近い時刻の地表面気温データを抽出して比較したところ,直接観測の記録とは0.75の同時相関係数を示した.アメダスの場合と比べて記録の一致性は劣っているが,M-ANALは時空間的に離れた格子点との比較であるため,元来,直接観測の記録と完全に一致することはない(この格子点データとアメダスとの同時相関係数は0.79となっていた).
鉛直方向の温位差(delta-theta)は,大気下層の混合状態の指標となり,delta-thetaが小さいほど混合層が発達している.直接観測の記録は地表面気温の観測結果と同様にdelta-thetaが総観規模で変動していることを明瞭に示す.一方,M-ANALのdelta-thetaはほぼゼロで一定となっていて,M-ANALの計算に用いられている大気モデルでは下層で常に混合層が形成されていることを示唆する.
過去の直接観測に基づく研究成果が示すように,海面付近の静的安定度は総観規模で変動していて,海洋上の大気下層の状態は常に混合状態にあるわけではない.直接観測の記録とM-ANALとの比較は大気モデルの境界層の取り扱いに問題があることを示している.
  
成果となる論文・学会発表等