共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

タマネギバエ成虫は老化するほど寒さに強くなるのか?
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 宮城学院女子大
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 田中一裕

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡康彦 芦屋大学生命工学 教授

2

落合正則 北大低温研

研究目的 これまでの研究から、生体膜リン脂質の脂肪酸組成は、昆虫の低温耐性と密接な関係にあることがわかっている。2010年度の共同利用研究において、我々はタマネギバエ(成虫)の生体膜リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度が日齢に伴って高まることを見出した。もしも生体膜リン脂質の不飽和度が低温耐性と関連しているなら、タマネギバエ成虫は日齢とともに寒さに強くなるはずである。しかし、一般には、低温耐性は老化にともない低下することのほうが多い。本研究の目的は、リン脂質の不飽和度の日齢に伴う変化から予想されるように、タマネギバエ成虫は老化するほど低温耐性が高まるのかどうかを明らかにすることにある。
  
研究内容・成果 実験には、雌雄ともにすでに生体膜リン脂質のデータが揃っている0日齢、5日齢、10日齢および20日齢成虫を用いた。成虫の低温耐性は、供試個体を0℃にさまざまな時間に曝し、倒れずに起きている個体の割合で評価した。また、0℃下で寒冷麻痺状態にある成虫を25℃に移し、起き上がるまでに要する時間でも評価した。供試用のハエは個体ごとに試験管にいれ、そのまま氷中においた。氷に浸している間、試験管内部の温度は0℃のまま推移した。ハエの観察は1時間おきに12時間にわたっておこない、各供試個体について起き上がっているか倒れているかを記録した。同様の観察を、24時間にわたって低温処理を施した個体についてもおこなった。
供試個体を0℃に曝すと、はじめはすべての個体がその姿勢を維持できずに倒れた。しかし、時間とともに、一部の個体が起き上がることが観察された。このような個体の割合は、オス・メスともに、日齢がすすむほど低下した。その低下の程度は、オスで顕著であった。
0℃に24時間曝されたハエを25℃に移し、起き上がるまでに要した時間を測定した。起き上がるまでに要した時間は、低温処理の長さによって異なった。処理が長いほど、起き上がるまでに要する時間は短くなった。このことは、低温処理中に何らかの低温順化のプロセスが進行したことを示唆している。起き上がるまでに要する時間には性の効果もみられた。0℃に24時間さらした場合、0日齢ではオスもメスもほぼ同じ時間で起き上がったが、20日齢ではオスの方が起き上がるまでにより多くの時間を要した。
今回の結果から、本種成虫の低温耐性は日齢とともに低下すること、その低下の程度はオスで著しいことが明らかになった。タマネギバエ成虫の生体膜の不飽和度は日齢とともに高まることから、本種成虫の低温耐性は日齢とともに高まると予想された。しかし、得られたデータは、その可能性を完全に否定していた。このことは、タマネギバエ成虫におけるリン脂質不飽和度の日齢にともなう変化は、低温耐性以外の生理特性と関連していることを示唆している。今後は、低温耐性以外のストレス耐性(耐熱性や耐乾燥性など)との関連を調べることで、その生理・生学的意義を検討したい。
  
成果となる論文・学会発表等