共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

宇宙ダスト生成過程解明に向けた数値的及び実験的手法による核生成理論の検証
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 田中秀和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

河野明男 海洋研究開発機構 研究員

2

木村勇気 東北大学 助教

3

佐崎元 北大低温研 教授

4

長嶋剣 北大低温研 助教

5

田中今日子 北大低温研 学振特別研究員

研究目的 気相からの凝縮核形成過程は、気象学(雲の形成)、天文学(宇宙ダスト起源)、および物性論(ナノ粒子形成)等、多くの科学分野で重要な役割を果たすが分子レベルでの理解は未だ限られている。古典的核形成理論は広く用いられているが、理論から得られる核生成率から得られる核生成率と何桁も一致しないことが示されている。我々はレナードジョーンズ分子や水分子に対し気相からの凝縮核生成過程を分子動力学(MD)計算により再現し詳細な解析を行うことで、精度の高い核生成理論モデルの構築を目指す。また核生成実験や結晶成長のその場観察実験とも連携して物性値の導出や理論の検証を行う。
  
研究内容・成果 1. レナードジョーンズ分子の核生成過程の大規模分子動力学計算
 古典的核生成理論の補正はこれまでさまざまな試みがなされてきたが、最も成功しているモデルのひとつにDillmann and Meier(1991)が提唱した半現象論的核生成モデル(SPモデル)がある。このSPモデルはいくつかの実験から得られる核生成率を良く再現することが示されている。。分子動力学(MD)計算は分子レベルの詳細な情報が得られ、核生成過程を調べる有効な手段である。我々はこれまでレナードジョーンズ分子を用いた気相‐液相間の核生成過程をMD計算により再現し、得られた核生成率がSPモデルと良く一致することを示した(Tanaka et al. 2005,2011)。しかし、従来のMD計算では計算機上の制限から核生成率が高い高過飽和状態しか扱えなかった。本研究ではより低過飽和の核生成過程を調べるため、大規模並列計算用の分子動力学計算コードであるLAMMPS(large-scale Atomic/Molecular Massively Parallel Simulator)を用いたスーパーコンピュータでの大規模並列計算による分子動力学計算を行った。これにより最大80億分子までの計算が可能となった。LAMMPSでは、空間内の粒子の相互作用を解くことにより、原子/分子の運動を計算する。LAMMPSの使用により非常に効率良く多くのコアを用いた計算が可能になった。本研究ではMPIを用いたハイブリッド並列化により32'768 CPUコアを用いて、1計算あたり10万から600万コア時間のシミュレーションを行った。これにより低過飽和領域での核形成率と臨界凝縮核、およびクラスターへの付着確率について、分子レベルでの新しい情報を得ることができた。
2.水分子の凝縮核生成過程の分子動力学計算
 水分子を用いたガスからの核形成過程をMDシミュレーションにより調べ、核生成率と気相分子のクラスターに対する付着確率を評価することができた。
3.凝縮核生成実験による物性値の導出
 近年均質核生成が起こる際の温度と圧力を同時に決定可能な非接触の“その場”観察法をガス中蒸発法が開発された。実験結果から得られる凝縮温度と粒子サイズと凝縮核生成理論を比較することにより、表面張力と付着確率を導出する方法を提案した。また、核生成実験と理論との比較検討により、マンガンの表面張力と付着確率を求めることに成功した。
  
成果となる論文・学会発表等 H. Tanaka, K. Wada, T. Suyama, and S. Okuzumi, Growth of Cosmic Dust Aggregates and Reexamination of Particle Interaction Models, 2012, Prog. of Theor. Phys. Suppl. 195, 101-113.
K. K. Tanaka, T. Yamamoto, H. Miura, M. Nagasawa, T. Nakamoto, and H. Tanaka, Evaporation of Icy Planetesimals due to Bow Shocks, the Astrophyscal J., 2013, 764, 120(11pp).
Y. Kimura, K. K. Tanaka, H. Miura, and K. Tsukamoto, Direct observation of the homogeneous nucleation of manganese in the vapor phase and determination of surface free energy and sticking coefficient, Crystal Growth & Design, 2012, 12, 3278-3284.
H. Tanaka, Growth of Dust Aggregates in Protoplanetary Disks and Reexamination of Particle Interaction Models,Dust and Grains in Low Gravity and Space Environment, 3rd, April, 2012.
H. Tanaka, Growth of Dust Aggregates in Protoplanetary Disks and Reexamination of Particle Interaction Models, Planet Formation and Evolution 2012,September 4th,2012.