共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北海道河川流域環境の変化と沿岸域の生産性との応答性研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学環日本海域環境研究センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 長尾誠也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山本政儀 金沢大学環日本海域環境研究センター 教授

2

関宰 北大低温研 准教授

3

三寺史夫 北大低温研 教授

研究目的  寒冷域の湿原や森林域は有機態炭素の貯蔵域として作用するとともに、海洋の生物生産に必要な栄養塩と微量必須元素の鉄の供給源として重要である。沿岸域での生物生産性を持続的に維持するためには、流域環境の変化と沿岸域の生物生産性との関係を評価する必要がある。本研究では、北海道の森林と湿原域が混在する別寒辺牛湿原・厚岸湖流域を対象に、堆積物有機物の堆積過程と堆積量の変動を解析した。その結果、厚岸湖堆積物の有機物は湿原由来と海洋起源有機物の二成分系の混合による堆積が河口部と湖内で異なることが明らかとなった。また、河口部付近で採取した柱状堆積物には、近年、陸起源有機物の供給量が減少した可能性が示唆された。
図1 厚岸湖表層堆積物有機物のΔ14C 図2 厚岸湖(●)、七尾湾(□)、噴火湾(○)、および大阪湾(◇)表層堆積物のΔ14Cとδ13C 図3 厚岸湖堆積物の有機炭素含有量(TOC)と炭素/窒素モル比(C/N)の鉛直分布
研究内容・成果 1. はじめに
 寒冷域の湿原や森林域は有機態炭素の貯蔵域として作用するとともに、海洋の生物生産に必要な栄養塩と微量必須元素の鉄の供給源として重要である。しかし、人為的な活動、あるいは温暖化の影響等により河川流域環境の変化が報告されている。
 本研究では、北海道の森林と湿原域が混在する河川流域を対象に、河川へ供給される栄養塩・鉄の流入量の変化と沿岸域での生物生産性との関係を堆積物の記録を解析することにより評価する。平成24年度は北海道道東の別寒辺牛湿原河川と厚岸湖において、有機物の移行動態に関する調査を行った。
2.試料と方法
 厚岸湖は面積32 km2、周囲長25 km、平均水深1.5 mの規模の半閉鎖水域で、低層湿地から構成される別寒辺牛湿原を流れる別寒辺牛川からの流入が主な淡水の供給源である。厚岸湖では北海道大学厚岸臨海実験所所属調査船えとぴりか号に乗船し、2009年8月18日に7測点で表層堆積物を採取した。2011年10月18日にはドルフィン2号により2測点、2012年2月7日には測点AK-40、2013年3月4-5日にAK-01とAK-02(■)で氷上から柱状試料を採取した。
 堆積物の有機炭素、全窒素含有量は、1M塩酸処理した試料について、乾燥粉末化後に元素分析計で測定した。有機物の炭素同位体比は質量分析計で測定しδ13C値として表した。また、放射性炭素の測定は、日本原子力研究開発機構青森研究開発センターむつ事務所の加速器質量分析計により行い、∆14Cとして表した。
3.結果と議論
 厚岸湖底の表層堆積物(0-1 cm)有機物のΔ14C測定値を図1に示した。厚岸湖奥の3測点では、Δ14Cが–109〜–44‰と湾央・南湾に比べて高く、別寒辺牛川の懸濁粒子の∆14C (–5.4‰)に近い値を示した。この結果は、昨年度報告したC/Nモル比、δ13C、およびδ15Nの水平分布と調和的である。つまり、陸起源有機物は別寒辺牛河口で大部分は沈着し、湾央部まで移動し堆積していないことを示している。
 図2には、厚岸湖表層堆積物ととともに七尾湾、噴火湾、および大阪湾表層堆積物のΔ14Cとδ13Cをプロットした。七尾湾、噴火湾、および大阪湾表層堆積物では、δ13Cの減少とともに∆14Cも減少した。一方、厚岸湖ではδ13Cの増加とともに∆14Cが減少し、陸起源有機物の違いが反映した結果であった。
 図3には、別寒辺牛川河口に近い地点で採取した柱状堆積物試料の有機炭素含有量と炭素/窒素比(C/Nモル比)を示した。堆積物の深さ0〜11 cmでは0.97〜2.4%、それ以深では1.1〜1.8%と異なる有機炭素含有量を示した。C/N比も表層では10.0 ± 0.5と11 cm以深の11.6 ± 0.3に比べて低い値を示し、陸起源有機物の供給量の減少、あるいは厚岸湖の海洋起源有機物生産量の増加といった、堆積環境の変化が示唆される。
図1 厚岸湖表層堆積物有機物のΔ14C 図2 厚岸湖(●)、七尾湾(□)、噴火湾(○)、および大阪湾(◇)表層堆積物のΔ14Cとδ13C 図3 厚岸湖堆積物の有機炭素含有量(TOC)と炭素/窒素モル比(C/N)の鉛直分布
成果となる論文・学会発表等