共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

個体ベースモデルを用いた植物個体群ダイナミクスの解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 筑波大 生命環境
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 廣田充

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

中河嘉明 筑波大学 生命環境 博士後期課程

2

横沢正幸 農業環境技術研究所 上席研究員

3

原登志彦 北大低温研

研究目的 個体間競争は個体群のダイナミクスにおいてきわめて重要である。競争の未知の側面に「場」と「網構造」がある。ある個体による競争の負の影響は距離が離れるほど減少し、同時に複数の個体の影響が多重に重なりあい、複雑な競争の影響の強さの「場」が形成される。また、個体群や群集においては、競争はある個体からある個体への(成長や生存における)負の影響関係の「網構造」をもつ。また、個体の空間分布は、植物個体間の競争、ひいては個体群ダイナミクスを決定する重要な要因をもっている。本研究では、競争の場や、網構造という性質、さらに、空間分布へ影響という側面から、同種同齢林における競争の基本的な性質を調べた。
  
研究内容・成果 1.個体間競争の場としての性質
競争による空間分布の影響を「場」の側面から調べた。従来の「植物個体群において個体間競争があるならば、最終的に個体群内の個体の空間分布は一様分布になる」という命題をテストした。このような複数の要素の相互作用が関わるダイナミクスに関する推論は認識論的創発が生じるため結果を正しく推測することは難しい。しかし、数理モデルでシミュレーションすることで正しく推測できる。まず、モデルは成長、枯死、競争のパートから構成した。競争パートで計算された各個体の受ける競争強度によって成長抑制と枯死促進が決定される。以上のモデルでシミュレーションを行なった結果、大個体と小個体が空間的に集中する様子が観察された。集中分布は大個体の周辺において小個体の死亡率が下がっているためであった。このとき、競争の「場」を用いて、調べると、大個体の周囲には競争強度が弱い谷状の場(Competition-induced shelter:CiS)が形成されていることがわかった。競争の条件(モデル構造、パラメータの値)を変えた場合にもCiSとそれによる集中分布は幅広く見られることも分かった。競争の条件によって、大個体に小個体が集中するパターンだけでなく、大個体に大個体が集中する場合や、中個体同士が集中する場合などさまざまな集中分布が形成することも分かった。通常、競争は負の影響をおよぼし空間的一様を促進するものだと考えられていたが、競争の「場」の観点を導入することで、それとは正反対の性質もあることが分かった。

2.個体間競争の網構造
個体間競争の性質を「網構造」の側面から調べた。まず、個体間の競争の網構造を推定した。次に、大量の個体間の関係のグラフ理論的で統計的な性質を調べるために、ネットワーク解析の指標(出次数、重み付き出次数)を用い調べた。植物個体群における個体間競争の出次数、重み付き出次数を調べた結果、出次数と重み付き出次数の確率分布はともに対数正規分布に近い「裾の“きわめて”長い分布」であった。また大個体ほど出次数、重み付き出次数ともに大きかった。これらのことは、少数の個体(すなわち大個体)が“きわめて”多くの個体に、“きわめて”大きな競争の負の影響を及ぼしていることを意味する。先行する複雑ネットワークの研究において、次数が「裾のきわめて長い分布」をもつネットワークでは、ノード(ここでは個体)のランダムな損失はネットワークの大きな破壊につながらないが、次数の大きなノードの選択的損失はネットワークの大きな破壊につながることが知られている。したがって、少数の大個体の損失(病害、虫害などによりものが考えうる)が、植物個体群内の競争のバランスなどに大きな影響を与えることが考えられる。
  
成果となる論文・学会発表等 Y. Nakagawa, M. Yokozawa, T. Hara, Ecological modeling (投稿中)
Y. Nakagawa, M. Yokozawa, T. Hara, Ecological modeling (投稿中)
中河 嘉明, 平成24年度文部科学省数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ 『気候モデルの農業への応用』(2012. 12. 19)