共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫自然免疫活性の調節機構
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松本 均 佐賀大農学部 非常勤研究員

2

降幡駿介 佐賀大農学部 大学院生

3

落合正則 北大低温研

研究目的 本研究では、獲得免疫系を持たない昆虫を用いて、この異物侵入非依存的な自然免疫活性調節機構を明らかにする。具体的には、まず、ショウジョウバエとカイコを実験材料に用い、昆虫サイトカインであるGrowth-blocking peptide(GBP)の非感染ストレスによる活性化機構を解明する。さらに、ストレス依存的なGBPによる抗菌ペプチド遺伝子発現(自然免疫活性)調節機構を明らかにする。本研究では、生化学的な解析についてはカイコ幼虫、分子遺伝学的な解析についてはショウジョウバエを用いることによって効率良く解析を進め、昆虫体内におけるストレス依存的な自然免疫活性調節機構の一端を明らかにする。
  
研究内容・成果 脊椎動物のように獲得免疫系を持たない昆虫は、自然免疫系のみで外界からの病原微生物の侵入・感染を防いでいる。脊椎、無脊椎を問わず全ての動物体内では、病原菌の感染を伴わなくとも、様々な外的・内的要因によって免疫活性は変動していることが知られている。しかし、そうした病原菌の侵入を伴わない様々な外的環境要因(ストレス)によって影響を受ける免疫活性の分子調節機構については、必ずしも十分に研究が進んでいるとは言い難い。
 今回、ショウジョウバエとカイコを実験材料に用い、昆虫サイトカインであるGrowth-blocking peptide(GBP)の非感染ストレスによる活性化機構を解析した。先ず、予備実験の結果、ショウジョウバエとカイコとも、それぞれ種特有のGBPによって複数の抗菌ペプチド遺伝子発現が上昇することを確認できた。この知見を基に、温度ストレスと抗菌ペプチド遺伝子発現の関係について調べた。カイコ幼虫においては、37度の高温ストレス依存的な抗菌ペプチド遺伝子発現上昇が確認でき、この発現上昇は、予め、抗GBP抗体を幼虫体内に注入することによって有意に減少することが明らかになった。すなわち、高温ストレス依存的な抗菌ペプチド遺伝子発現上昇が、GBPによって調節されている可能性が示唆された。この可能性をショウジョウバエ幼虫を用いて検証した。GBP RNAiトランスジェニックショウジョウバエを作成し、人為的に生体内でGBP遺伝子の発現を抑制した幼虫に対し、高温と低温のストレスを与えた後、抗菌ペプチド遺伝子発現レベルを測定した。その結果、GBP RNAiショウジョウバエ系統では、コントロール系統に比べ有意に温度ストレスに伴う抗菌ペプチド遺伝子発現レベルが低いことを確認した。今回の解析結果より、温度ストレス条件下での抗菌ペプチド発現上昇が、カイコにおいてもショウジョウバエにおいても、サイトカインGBPによって調節されていることを証明した。今後は、GBPによる抗菌ペプチド遺伝子発現調節に関与する細胞内情報伝達経路の解析を進める予定である。
  
成果となる論文・学会発表等 Tsuzuki, S., Ochiai, M., Matsumoto, H., Kurata, S., Ohnishi, A. and Hayakawa, Y., 2012
Drosophila growth-blocking peptide-like factor mediates acute immune reactions during infectious and non-infectious stress. Scientific Reports, 2. 210.