共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

森林の齢構造遷移に関与する土壌細菌群集動態の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東京大学大学院農学生命科学研究科
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 藤井正典

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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小島久弥 北大低温研

研究目的 土壌細菌群集はその多様な代謝経路により、森林生態系の物質循環プロセスにおいて主要な役割を担っている。一般に、窒素は樹木の生長に対する制限要因となるため、森林の成長過程には、窒素循環プロセスに関与する土壌細菌の働きが重要となる。本研究では、標高傾度に沿った調査地を設定し、土壌細菌による森林の窒素循環への寄与について評価することを目的とした。
  
研究内容・成果 調査は、平成24年7月に東京大学秩父演習林で行った。標高1050mから2000mまでを50m間隔で区切り、合計20地点を調査地として設定した。各調査地において、表面から深さ10cmまでの土壌コアを試料として採取し、同時に土壌温度を測定した。各調査地でランダムに12か所から合計240の土壌コアを持ち帰り、実験に使用するまで-80℃で保存した。持ち帰った土壌コア試料について、pHと含水率の測定を行った。また、各土壌コア試料から直接DNAの抽出し、遺伝子解析に供した。
土壌温度は、12.4℃から18.8℃までの値を示し、標高の上昇に対する強い負の相関関係を示した(r = -0.9, P < 0.001)。土壌含水率は、18.1%から85.2%と広範囲に及んでおり、標高が高くなるほど水分含有率が高くなる傾向を示した(r = 0.52, P < 0.001)。pHは、3.86から6.29までの値を示し、標高の上昇と共に酸性側の環境に推移する傾向を示した(r = -0.55, P < 0.001)。以上の結果から、森林土壌環境は、標高に沿って大きく変化することが明らかとなった。次に、窒素循環プロセスに関与する土壌細菌群集構造を明らかにするため、森林への窒素供給プロセスに関与する機能群として窒素固定遺伝子(nifH)を、窒素除去(脱窒)プロセスに関与する機能群として亜酸化窒素還元遺伝子(nosZ)を、さらに、内部循環プロセスに関与する機能群としてアンモニア酸化遺伝子(amoA)をそれぞれ標的としてPCR増幅を行った。その結果、対象とした全ての遺伝子について増幅が確認された。
本研究の結果から、標高傾度に沿った森林土壌環境の多様性と、窒素循環プロセスに関与する細菌群集の存在が明らかとなった。今後は、窒素循環に関与する各遺伝子について、定量PCRやT-RFLP解析を行うことにより、各機能群の存在量や群集構造を明らかにしていく予定である。森林土壌環境と窒素循環プロセスに関与する土壌細菌群集との関係が明らかになれば、森林の成長を適切に維持管理していく方法の提案に繋がると期待される。
  
成果となる論文・学会発表等