共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	積雪変質・アルベド過程モデル開発のための積雪物理量及び熱収支に関する観測的研究2
新規・継続の別	継続（平成23年度から）
研究代表者／所属	気象研究所
研究代表者／職名	研究室長
研究代表者／氏名	青木輝夫

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	朽木勝幸	気象研究所	研究官
2	庭野匡思	気象研究所	研究官
3	八久保晶弘	北見工業大学	准教授
4	的場澄人	北大低温研	助教

研究目的	近年、北極域では急激な雪氷の融解が進行しているが、実際の雪氷融解速度は多くの気候モデルの予測よりも速い速度で進行している。その原因解明のため、過去の本共同研究では気候モデルで用いることができる以下のサブモデルを開発してきた。すなわち、(1)積雪汚染がアルベドを低下させる効果を考慮した積雪アルベド物理モデル（PBSAM）、(2)積雪変質過程も含む積雪変質・アルベド過程モデル（SMAP）である。本研究では低温科学研究所の露場において、放射・気象・エアロゾル・雪氷の連続観測を実施し、これら観測データを用いて、PBSAM及びSMAPの改良・検証を行うことにより、雪氷圏における将来予測精度向上に資する。

研究内容・成果	昨年度に引き続き、低温研露場において放射収支、気象、エアロゾルの通年連続観測を行うと共に、冬期間に週2回の積雪断面観測を実施した。今冬期の気象状況は例年に比べ、低温・多雪で、積雪深は2月末に約1.3mに達した。観測された雪質は、例年卓越するしまり雪、ざらめ雪、及び氷板に加えて、鉛直温度勾配の存在下で発達するとされるしもざらめ雪なども頻繁に観測された。このため、今冬期に取得されたデータは、本研究で開発しているモデルの更なる精度向上のための貴重な基礎資料となることが期待される。過去に低温研露場データを用いて開発・検証されてきたSMAPモデル（Niwano et al.， 2012）を現在急激な雪氷の融解が進行しているグリーンランドに適用した。基本的には札幌での設定とほぼ同条件を課したSMAPモデルに、北西グリーンランドのSIGMA-Aサイト（78°03’N， 67°38’W， 1，490 m a.s.l.）における気象データを入力して精度検証をしたところ、2012年夏の急激な表面融解イベント時の積雪状態を概ね再現できた。この結果は、低温研露場での積雪プロセス研究の成果が北極域の雪氷状態変化を理解する上で有用なことを示すものである。低温研露場で採取された積雪サンプルの分析を継続して行い、2007-2012年における積雪不純物濃度を解析した。不純物濃度はダスト、有機炭素、元素状炭素の順に大きく、各不純物ともに涵養期には低濃度で融雪期には高濃度という季節変化を示した。冬期の気象条件に依存して各年の不純物濃度に違いが表れたが、5年間に顕著なトレンドは確認されなかった。また、気象研究所のカーボン分析装置（熱光学法）による元素状炭素濃度の分析結果を、東京大学及び国立極地研究所のブラックカーボン分析装置（レーザー誘起白熱法）による分析結果と比較したところ、熱光学法の方が概して低濃度となった。この原因として、濾過用の石英フィルターの捕捉率が低いことが考えられたため、銀メンブレンフィルターとの2段濾過、黒色炭素の凝集を促進させるリン酸二水素アンモニウムの添加等の実験を行い、捕捉率の評価と改善を図った。また、低温研露場に設置している全天分光日射計データを用いて、積雪粒径と積雪不純物濃度を光学的に抽出するアルゴリズムの検証を行った。積雪不純物濃度の抽出結果は外部混合モデルに比べて内部混合モデルでは低濃度なり、不純物の混合状態に強く依存することが分かった。実測値は概ね両モデルの中間の濃度であった。積雪アルベドを支配している積雪物理量の一つである積雪粒径測定精度向上のため、積雪粒径と相関の高いBET吸着法による比表面積測定装置（八久保ら， 2012）を開発した。その結果、吸着質にメタンを用いる方法だけでなく、寒剤として液体窒素が不要なヘキサンを用いる方法にも可能性があることが分かった。

成果となる論文・学会発表等	Niwano， M.， T. Aoki， K. Kuchiki， M. Hosaka， and Y. Kodama， 2012: Snow Metamorphism and Albedo Process (SMAP) model for climate studies: Model validation using meteorological and snow impurity data measured at Sapporo， Japan， J. Geophys. Res.， 117， F03008， doi:10.1029/2011JF002239. 八久保晶弘，山口悟，谷川朋範，堀雅裕，杉浦幸之助，庭野匡思，朽木勝幸，青木輝夫， 2012: ガス吸着法による積雪比表面積測定装置の開発，北海道の雪氷， 31， 45-48. 朽木勝幸，青木輝夫，庭野匡思，兒玉裕二，的場澄人， 2012: 札幌における2007-2012 年の5 冬期間の積雪不純物濃度，雪氷研究大会（2012・福山），日本雪氷学会/日本雪工学会， 2012年9月24-27日，福山， C3-10， 81.