共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 草本植物個体群の生理生態的寒冷適応機構の理論解析
新規・継続の別 継続（平成23年度から）
研究代表者／所属 北九州市立大学国際環境工学部
研究代表者／職名 教授
研究代表者／氏名 原口昭

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

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 原登志彦 北大低温研

研究目的 　全球の炭素循環の中での植物群集の機能に関する解析において、個体群を単位とした炭素固定機能の環境応答に関する定量的な評価はまだ十分に行われていない。特に莫大な炭素蓄積を有する生態系である泥炭地の湿生植物群集は、環境変動の影響を受けやすい寒冷圏の群集における炭素収支の気候変動に対する変化を予測する上で鍵となる生態系である。昨年度までの共同研究において得られた、一年生植物と蘚苔類植物の光合成機能に及ぼす温度と光環境の影響に関する実験的、理論的解析結果をもとに、炭素循環の中での個体群レベルでの機能、とくに蘚苔類の個体群の成長過程での炭素固定機能の変化について検討した。
　　
研究内容・成果 　北方圏の主要な生態系の一つである泥炭地は、巨大な土壌有機炭素のプールであり、全球の炭素循環に大なかかわりを持っているが、森林生態系と比較して、泥炭湿地の草本群集での炭素収支にかかわる情報は限られている。従って、全球レベルでの炭素循環モデルの改良のためには、泥炭湿地群集における炭素収支を正確に評価し、モデルに組み込むことが必要である。
　今年度は、これまでの共同研究の結果をふまえ、主要な泥炭形成植物であるミズゴケ類の光合成活性の環境応答に関するデータの蓄積を継続して行うとともに、個体群レベルでの炭素収支に関するパラメータの決定方法について検討し、個体群レベルでの生理特性と寒冷適応との関連を理論に組み込む際の問題点を抽出した。
　ミズゴケ類の炭素固定機能に関しては、従来は成長点を含む光合成系の一部を計測対象として、ここでの物質生産速度から群集レベルでの一次生産速度の推定を行ってきたが、維管束植物とは異なり、ミズゴケ類では、成長点、光合成系、リター（枯死部）、腐植が混在しているため、光合成系と非光合成系に分割した維管束植物の生理活性の評価法は適用することが出来ない。とくに群集レベルでの炭素収支のモデル化のためには、リターや腐植部分の分解と光合成系での一次生産との関連に関しては詳細な検討が必要である。本研究では、全個体チャンバーをミズゴケ群落の光合成速度計測に応用し、リター部分の有無による光合成系の光合成活性の違い、およびミズゴケ群落の成長に伴う光合成活性の変化を評価する方法について検討した。すなわち、ポットの中にミズゴケ（オオミズゴケおよびヒメミズゴケ）の成長点を含む先端部を植栽し、このポット全体の二酸化炭素収支を光合成計測装置を用いて計測することにより、個体の成長の過程での純光合成速度（光合成系の二酸化炭素固定速度と基部のリター、すなわち非光合成系の二酸化炭素生成速度との差）の時間経過を求めた。その結果、非光合成系の有無が光合成活性の計測値に大きく影響を及ぼすことが明らかになったが、これをモデルに組み込む際、光合成系と非光合成系とをどのように分割すべきかに関しては今後検討が必要である。光合成速度の時間経過に関しては、現在継続して計測を行っており、群落全体の二酸化炭素収支が吸収から放出に変化する点を決めることが可能であるが、この計測ではミズゴケの栽培環境を適切にコントロールする必要があり、現在この点も含めた検討を行っている。
　これまでの研究結果も含め、ミズゴケ群集の炭素収支を正確に把握しこれを炭素循環モデルに組み込む際には、葉緑細胞と貯水細胞との間での物質輸送速度、植物体と気相あるいは液相との間での物質輸送速度、リターおよび泥炭における有機物分解速度、植物体の枯死部と光合成系との間での物質輸送、についての解析が必要であると考えられる。
　　
成果となる論文・学会発表等