共同研究報告書


研究区分 萌芽研究

研究課題

東アジア縁辺海統合観測航海による対馬暖流系の流動・物質輸送過程の解明
新規・継続の別 萌芽(3年目/全3年)
研究代表者/所属 北大
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 磯田豊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

久万 健志 北海道大学大学院水産科学研究院 教授

2

工藤 勲 北海道大学大学院水産科学研究院 准教授

3

長尾 誠也 金沢大学環日本海域環境研究センター 教授

4

井上 睦夫 金沢大学環日本海域環境研究センター 助教

5

兼田 淳史 福井県立大学海洋生物資源学部 講師

6

高尾 祥丈 福井県立大学海洋生物資源学部 助教

7

森本 昭彦 名古屋大学地球水循環研究センター 准教授

8

千手 智晴 九州大学応用力学研究所 准教授

9

渡邉 豊 北海道大学大学院環境科学研究院 准教授

10

江淵 直人 北大低温研

11

中村 知裕 北大低温研

12

西岡 純 北大低温研

研究目的  平成22年度に立案した調査航海計画に従って、北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」を用いた統合観測航海を平成23年6月8日(函館出港)から7月7日(那覇入港)の期間(約一カ月)で実施した。本年度はその研究成果報告会を低温科学研究所の研究集会「宗谷暖流を始めとした対馬暖流系の変動メカニズム(研究者代表:九大の広瀬准教授)」と共催して、平成24年7月5・6日に同研究所で実施した。本研究の目的は物理・化学の観測データ全体を統合的に解析し,東アジア縁辺海での水塊分布の把握とその輸送・混合過程の解明にある。
  
研究内容・成果 各研究成果を総括すると次のようになる。
海面高度データを用いた日本海表層流れ場の推定及び対馬海峡の実測流速場(潮流除去)が提示され(名古屋大の森本氏)、東シナ海で卓越する潮流と潮位との関係が示され(水大校の滝川氏)、宗谷海峡における25時間往復観測により潮汐に同期した冷水ベルトの実態が明らかとなり(北大の中村氏)、本観測時における対馬暖流系流動場の全体像が把握された。
これまで沿岸域に分布すると考えられていたラビリンチュラ類は対馬暖流域の表層海水中にも存在し、その遺伝子的な種組成が対馬暖流の水塊特性により異なることが明らかとなった(福井県立大の兼田氏)。同じ表層海水のCs-137と137の存在比と経時変化から、福島原発事故による大気起源のCsは日本海北部を中心に供給され、その急速な濃度低下は対馬暖流の北向き移流により説明された(金沢大の井上氏)。エンドメンバーを仮定した塩分・アルカリ度の水塊分布から、表層水と中層水の流下方向の鉛直混合過程が示唆され、栄養塩の混合による初期値(冬季)と観測値(6月)の差から基礎生産量が推定された(北大の工藤氏)。栄養塩と溶存鉄及びフミン物質の値及び分布より、宗谷暖流の沖合境界に位置する冷水ベルトの起源は日本海上部固有水(北海道西岸沖の冷たい水)である可能性が示唆された(北大の久万氏)。オホーツク海南部と北海道西岸沖における栄養塩と溶存鉄の表層連続測定から、流路には必ずしも沿わない、空間スケールの小さな水塊分布の存在が指摘された(北大の田中氏)。溶存酸素とPO4の観測値から推定されたPreformed PO4より、対馬暖流下部の中層水(500m以浅)の起源は極前線北部海域の表層水にあることが示唆された(北大の磯田)。中層以深の深層水に関しては、大和海盆と日本海盆の境界に形成される底層フロントの変動及び安定性が議論され(九大の千手氏)、各種フロンを用いた滞留時間の概算から近年の深層水形成が弱まっていることが示された(環境研の田中氏)。
本研究はスナップショット的であったものの、多くの計測項目を同時観測したことにより、各自の生物・化学分析項目が異なっていても、同一の物理環境場で議論ができるという利点があった。勿論、それぞれに時間履歴の異なる情報を含んでいるため、東アジア縁辺海における水塊輸送・混合過程を一言でまとめることは難しい。少なくとも、研究参加者の共通認識として、流下方向へ次々に分岐する流路変化と混合過程による各種物質の滞留時間をイメージできる結果が得られたものと考える。今後は、この共通認識のもと、データ(情報)を相互に交換して考察のレベルを深め、本萌芽研究の成果論文として世の中へ提示して頂けること、また、本成果が環オホーツク観測研究センターによる宗谷暖流及び冷水ベルトの将来研究において良い情報となることを願っている。
  
成果となる論文・学会発表等