共同研究報告書


研究区分 研究集会

研究課題

環オホーツク陸域システムにおける溶存鉄を中心とする物質循環の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東京農工大学農学研究院
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 楊宗興

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

柴田英昭 北海道大学北方生物圏フィールド科学センタ 准教授

2

長尾誠也 金沢大学環日本海域環境研究センター 教授

3

大西健夫 岐阜大学流域水環境リーダー育成プログラム 助教

4

春山成子 三重大学生物資源学研究科 教授

5

山縣耕太郎 上越教育大学社会系教育講座 准教授

6

川東正幸 日本大学生物資源科学部 専任講師

7

庄子仁 北見工業大学未利用エネルギー研究センタ 教授

8

白岩孝行 北大低温研

9

的場澄人 北大低温研

10

西岡純 北大低温研

研究集会開催期間 平成 23 年 11 月 5 日 〜 平成 23 年 11 月 6 日
研究目的 平成17-21年度に実施した「アムール・オホーツクプロジェクト」は、アムール川起源の鉄がオホーツク海と親潮の基礎生産を支えているひとつの重要な要因であることを指摘した。その鉄は、アムール川流域の湿原を主要な起源とし、森林や湿原で生産される腐植物質と錯体を形成して、オホーツク海と親潮域に輸送される。また、陸面の酸化・還元状態の季節的な変化や、河川の氾濫、地下水の揚水の効果など、様々な要因も重要である。本研究集会は、亜寒帯河川流域における鉄をはじめとする物質循環の特性を議論することにより、亜寒帯河川流域が海洋生態系に与える影響を整理し、将来の研究に向けた課題を洗い出すことを目的とする。
  
研究内容・成果 平成23年11月5-6日に北海道大学学術交流会館において開催された第2回アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合のセッション1を本研究集会と共同で開催した。提供された話題は、7編であり、報告内容は"Proceedings of the 2nd International Meeting of Amur-Okhotsk Consortium 2011"に英文レポートとして公表済みである。また、この共同研究とは独立して、本共同研究のメンバーが協力し、「海洋と生物198号」(生物研究社)に「大陸と外洋を結ぶ溶存鉄:アムール川とオホーツク海・親潮」と題する特集号を組んだ。
 楊と柴田は、アムール川流域における溶存鉄濃度が採取地点とその周囲との間の相対的な標高差と反比例の関係にあることに注目し、湛水しやすい平坦な場所で溶存鉄濃度が高いことを見出した。また、溶存鉄濃度と溶存有機態炭素濃度との間には比例関係があることから、溶存鉄の大部分が有機錯体鉄である可能性を示唆した。また、森林火災を受けた流域と受けていない流域における河川水中の溶存鉄濃度が顕著に異なることから、森林火災は溶存鉄の錯体の相手となるべき有機物を減少させることで、溶存鉄濃度を低下させていると結論した。
 長尾と川東はアムール川における観測航行によって得られたサンプルの分析から、河川流路を通じた溶存鉄の地理的分布とダイナミックスを考察した。その結果、アムール川への鉄の供給源として中流域の森林と共に、下流域に広大に拡がる湿地域が重要であることを明らかにした。溶存鉄の供給量は湿地からの寄与により下流域で夏場に極大となる。これにはアムール川の水位上昇時に河川水が後背湿地にあふれ出し、湿地からの溶出によりその供給量が増えるという原因が考えられた。ハバロフスクでの観測により見積もった溶存鉄の輸送量は年間1.1±0.7×10^11gであった。この溶存鉄の大部分は河口域で凝集沈殿するが、アムール川河口域とアムールリマンには堆積せずに、オホーツク海に直接流出していると考えられる。
 大西は、アムール川を対象として溶存鉄アルゴリズムを組み込んだ水文モデルを構築した。準分布型の水文モデルは、降水の降雨と雪への分配、樹冠遮断、積雪と融雪、蒸発散、表面流出、地下水流出を考慮し、土壌水分量の空間的な分布を計算する。一方、溶存鉄生成のアルゴリズムは、土壌の飽和状態が実現されてから飽和状態が持続した日数を飽和継続日数SDと定義し、飽和継続日数がある閾値SDcを超えると溶存鉄が生成されるようにした。このモデルをNash and Sutcliffeの適合基準によって評価した結果、流量と溶存鉄濃度を概ね再現できることが判明した。また、大西とシャーモフ(ロシア 太平洋地理学研究所)は、1998年に観測されたアムール川の突発的な溶存鉄濃度のピークの原因を考察し、温暖化によって融解する永久凍土が原因のひとつとして考えられる可能性を示唆した。
 以上。
  
研究集会参加人数 30 人