共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物群集の空間分布構造と物質循環機能との関係解析
新規・継続の別 継続(平成22年度から)
研究代表者/所属 農業環境技術研究所
研究代表者/職名 上席研究員
研究代表者/氏名 横沢正幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

中河嘉明 筑波大生命環境 大学院生(博士課程)

2

廣田 充 筑波大生命環境 准教授

3

原登志彦 北大低温研

研究目的  植物群集は、それを取り巻く環境および構成個体間との相互作用によって時間的空間的に変化し、群集の内部構造および空間構造が創発される。一方、群集内部では個体の生長、枯死、定着過程を通じて炭素や水などの物質循環が起きている。本研究は、植物群集の空間分布パターンとその群集が持つ物質循環の機能との関係を解明することを目的とする。
  
研究内容・成果  植生の遷移過程ならびにその結果引き起こされる物質・エネルギーの循環において局所的な植物個体の空間分布は重要な働きをしている。しかし、遷移過程における個体の空間分布に関する従来の研究では、対象群集内の種数は少数(2〜3種)である。また、同所的に複数の遷移段階の空間分布を比較した研究も少ない。そこで本研究では、まず、複数(6種)の樹木種が存在する、2つの遷移段階にある植生において、個体の空間分布を(種別に)調べた。次に、シミュレーションによって、観察されたような空間分布の形成の仕組みを個体間競争から説明するとともに、この空間分布の遷移過程への影響を調べた。
 使用したデータは筑波大学菅平高原実験センターに設けられた調査区にて2008年に毎木調査されたものである。この調査区は針葉樹林と、より遷移の進行した針広混交林の2つの区分に分けられる。主な構成種は、アカマツ、シラカバ、ズミ、ヤマウルシ、ヤマザクラ、ミズナラである。個体の空間分布の時間変化を調べるために、クロス・ペア・コリレーション関数を使用した。観察された個体の空間分布を説明するために、シミュレーション実験を行った。
 両遷移段階において、ほとんどの種で種内集中分布が見られた。また、針葉樹林ではレア種ほど複数の異種間で集中分布した。針広混交林ではレア種は先駆のコモン種に集中分布した。また、シミュレーションによってレア種の異種間集中分布とともに、針葉樹林と針広混交林におけるレア種の異種間集中分布の違いも再現できた。これは、競争に弱いほど、資源獲得ができず個体数が小さくなる(レア種)と同時に、競争に強い種に異種間集中分布をする(集中度上昇)し、その結果、「レア種ほど集中分布する」という相関が見られるということを説明している。
 従来、遷移過程における個体の異種間集中分布はファシリテーションなどが原因とされてきたが、このシミュレーション結果は個体間競争を原因と考える事もまた演繹的に妥当であることを意味する。これは従来、全く考慮されてこなかった結果であるが、他の想定しうる原因(ファシリテーション、種特異的な捕食者や病原菌、種子散布、種ごとの非生物的環境の嗜好性の違い)よりも観察された空間分布を上手く説明できると考えられる。また、Getzin et al. (2006)の遷移過程においてimportance of competitionが高いほど集中分布が見られたという報告とも整合的である。さらに、シミュレーションはレア種ほど異種間で集中分布することが、実生の定着率や生存率を高めること、群落構成種の交替を促進することも示した。このことから、観察された空間分布は遷移を促進する働きがあると考えられる。
  
成果となる論文・学会発表等 Y. Nakagawa, M. Yokozawa and T. Hara. On the emergent spatial structure of size-structured populations: Does competition among individuals lead to an increase in clustering? Journal of Ecology, in review.