共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

火星北極冠上のステップ地形の発達に関する実験的研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪工業大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 横川美和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

泉典洋 北海道大学工学部 教授

2

Isaac B. Smith The University of Texas at Austin 院生(博士後期課程)

3

John W. Holt The University of Texas at Austin 講師

4

Wonsuck Kim The University of Texas at Austin 助教

5

Ralf Greve 北大低温研 教授

6

山田朋人 北海道大学工学部 准教授

研究目的  火星北極冠には螺旋状のステップ地形が発達しており,近年その詳細な内部構造が明らかになった.内部構造は発達過程の記録であり,この記録を読み解く事によって,これらの構造を作った営力(風など)の火星史を通じた変動を復元する事が可能になるかもしれない.しかし,これらの内部構造の発達過程についてはまだ何もわかっていない.
 申請者らは,この内部構造が深海の海底谷沿いに発達するサイクリックステップのそれと酷似する事に着目した.両者の共通点を鍵として,アナログ実験を行い,火星の北極冠上のステップ地形の発達過程の解明を目指す.
  
研究内容・成果  火星の北極冠上の螺旋状地溝(スパイラルトラフ)は,北極冠上を極点から外方向に吹く滑降風に対して直交方向に延びており,流れに対して直角方向に波峰線を持つ界面波の一種であると推測される.また高解像度のレーダ反射画像から明らかとなったスパイラルトラフの内部構造は,界面波が“上流側”に移動しながら累重している事を示しており,深海海底谷の自然堤防上に発達するサイクリックステップ(以下CS)の内部構造と酷似している.
 CSは上下流端を「跳水」で区切られた周期的なステップ状地形であり,フルード数や内部フルード数が大きい領域で発生する,上流進行の界面波の一種である.内部構造の類似性から,火星北極冠上のスパイラルトラフは滑降風によって形成されたCSではないかという推論が提起されているが,未だ広く受け入れられるには至っていない.そこで本研究では,火星北極冠上でのCS形成のアナログとして,氷の上にCSを形成する実験を行った.
 火星の場合は滑降風によって昇華(侵食)がある場所で起こり,別の場所では大気に含まれていた水蒸気が昇華して氷となって堆積すると推測される.この現象のアナログとして,氷の表面に水を含む不凍流体を流し,ステップの発達の有無とその発達過程を観察した.この場合,水を含む不凍流体が滑降風の替わりとなる.用いた流体は (a)エチレングリコールー水混合液(エチレングリコール濃度17%,氷点:-6.6℃),(b)シリコンオイル(20cS)―水混合液(9:1,氷点-0.7℃)である.実験には長さ1.4m,幅2cm,深さ25cmのアクリル製水路を用いた.水路の下流端と下流端から1.2mの部分に高さ8cmの堰を設け,この間に水をはって氷点下の実験室で凍らせて氷を作成した.氷ができたら,水路を5〜35°傾けて設置し,氷表面にヘッドタンクから上述の流体を流した.流体は氷表面を流れた後,下部タンクに入り,そこからポンプでヘッドタンクに揚げて循環させた.1回目の実験(a)では,温度制御は室温のみ可能であった.2回目の実験(b)ではヘッドタンクと下部タンクにヒーターを取り付け,液温を氷点よりわずかに高い程度の温度に制御した.液温は(a)-6.1〜-6.6℃,(b)-1.0〜1.5℃であった.
 実験(a)の結果,侵食的な条件の下で周期的なステップが形成された.実験(b)では,侵食条件でも堆積条件でも周期的なステップが形成された.これまでの実験結果では,これらのステップは侵食的な場合も堆積的な場合もほぼ垂直に発達しており,顕著な上流進行あるいは下流進行の傾向はみられなかった.
 本研究では,これまでに研究例のない,氷上を流体が流れる事によるステップ形成に成功した.サイクリックステップの重要な性質である上流進行,さらにそれらの累重が起こる条件を探る事が今後の課題である.
  
成果となる論文・学会発表等 学会発表
(1) M. Yokokawa, N. Izumi, H. Shimizu, K. Naito, T. Yamada, R. Greve, and T. Shiraiwa, Preliminary experiments of cyclic steps on ice aiming to understanding the formation of the spiral troughs on Mars’ North Polar Layered Deposits, 2011 PERC (Planetary Exploration Research Center) Planetary Geology Field Symposium, 2011年11月5日.
(2) 清水裕貴・横川美和・内藤健介・泉典洋・山田朋人・Ralf Greve・白岩孝行,火星の北極冠に見られるスパイラルトラフの形成過程についての実験的研究:予報,日本堆積学会2011年長崎大会,2011年12月23日.
(3) 内藤健介・清水裕貴・泉 典洋・横川美和・山田朋人,火星北極冠におけるサイクリックステップに関する実験的研究,平成23年度土木学会北海道支部年次技術研究発表会,2012. 2.