共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

チョウ類における帯糸黒色化調節機構の解析
新規・継続の別 継続(平成21年度から)
研究代表者/所属 山大院医学系
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 山中明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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落合正則 北大低温研

研究目的 ジャコウアゲハやナミアゲハなどのチョウ目昆虫は、蛹になる前の段階で、自身の体を支える帯糸を吐糸する。この帯糸は周囲の環境(湿度)の違いによって白色あるいは黒色となる。本研究では、環境適応調節によって誘導されるチョウの帯糸黒色化調節機構にフェノール酸化酵素カスケードが機能しているのではないかという仮説を立て、生理生化学的・分子生物学的にチョウ類の帯糸黒色化機構を解明することを目的としている。
  
研究内容・成果 チョウの終齢幼虫は、ガットパージ後、蛹化場所を選定すると蛹化場所に体を固定するため蛹化面に、あるいは体を取り巻くように糸を掛ける。
 ジャコウアゲハは帯蛹であり、その帯糸は、他のアゲハチョウ類に比べ太いだけでなく、色が黒色と白色の2系が存在する。これまで、ジャコウアゲハの帯糸の色を変化させる環境要因は、幼虫期の日長に関わらず、相対湿度80%以上の環境で蛹化すると帯糸が黒色に、一方、相対湿度75%以下の場合、帯糸が白色になることが知られている。
 本研究では、ジャコウアゲハ老熟幼虫が吐糸した帯糸の黒色化調節機構ならびに、他種チョウの帯糸あるいは台座糸の色の変化について調べた。
 まず、ジャコウアゲハの帯糸を黒色化させる環境要因を追試するため、老熟幼虫を湿度の異なる環境下で蛹化させ、蛹の帯糸の色を調べた。その結果、老熟幼虫の蛹化する場所が相対湿度80%以上の高湿度条件であることが再検証された。
 次に、吐糸された白色の帯糸を取り出し、メタノール雰囲気下および水蒸気雰囲気下に2日間保持し、帯糸の色の変化を調べた。メタノール雰囲気下に保持した帯糸は白色のままであったが、水蒸気雰囲気下に保持した帯糸は黒色となった。さらに、蛹から取り出した帯糸を熱処理(90℃、5分間)し、相対湿度90%以上の高湿度条件下に保持した場合、帯糸は白色のままとなった。このことから、帯糸中に含まれている物質が湿度(水分)のある状態に置かれると帯糸を黒色化させることが示唆された。
次に、帯糸の黒色化はメラニン形成によるものかを検討するため、L-DOPAの酸化によって生じるドーパクロムの520 nmの吸収を指標に、定性的にフェノール酸化酵素 (PO) 反応の有無を調べた。その結果、体液および絹糸腺粗抽出液においてドーパクロムの生成が認められたので、L-DOPAを酸化するPOが体液中に、そしてわずかではあるが絹糸腺中にも存在することが示唆された。
次に、フェノール酸化酵素前駆体 (proPO) がジャコウアゲハの絹糸腺に存在するかを、カイコガ幼虫体液のproPOに対して作成されたproPO抗体を用いて実験を行った。その結果、ジャコウアゲハ絹糸腺粗抽出液中にproPO抗体と交差反応を示すタンパク質バンドが検出された。また、proPOがジャコウアゲハの絹糸腺中で合成されたものかあるいは体液から絹糸腺に移行してきたものかを検討するため、ジャコウアゲハの絹糸腺のトータルRNAからcDNAを合成し、カイコガ幼虫血球細胞のcDNAを対照として、カイコガ血球細胞proPO1遺伝子のプライマーを用いてPCRを行った。その結果、PCR産物のバンドは血球細胞および絹糸腺で同じ位置に認められ、ジャコウアゲハ絹糸腺でproPO mRNAからproPOが合成されていることが示唆された。
  
成果となる論文・学会発表等 山中明・林友萌子・林絵里・北沢千里・落合正則. ジャコウアゲハの帯糸の黒色化に関わる因子. 日本動物学会第82回大会予稿集.p131.2011.9.21.