共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 雪氷コア中金属成分分析によるエアロゾル輸送記録の復元
新規・継続の別 継続（平成22年度から）
研究代表者／所属 山形大学理学部
研究代表者／職名 教授
研究代表者／氏名 鈴木利孝

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 飯塚芳徳 北大低温研 助教

2

 的場澄人 北大低温研 助教

研究目的 雪氷中には地殻物質や火山灰などがエアロゾルとして供給され、それらの多くは難溶性粒状物として存在している。したがって、雪氷中粒状物の濃度や化学組成を明らかにすることにより、陸面から雪氷圏へのエアロゾルの負荷量や供給源に関する情報を得ることができる。本研究では、北半球各地で得た雪氷コア中の金属成分全濃度および個別粒子化学組成を解析し、気候・環境変動に伴うエアロゾル輸送強度と供給源の変動を明らかにすることを目的とした。
　　
研究内容・成果 昨年度からの継続実験として、カムチャッカ半島ウシュコフスキー氷河コアの金属全濃度および濁度測定を行った。また、本年度から、新たな解析試料として、1989年にグリーンランドSite-J地点で採取され、低温科学研究所に保存されている雪氷コアの濁度と金属全濃度の測定にも着手した。全長約212mのウシュコフスキーコアについては、電気伝導度、pH等のデータが取得されている深度、約5〜80mの区間から、80試料の分析を行った。全長約205mのSite-Jコアについては、約5〜200mの区間から、32試料分取して、濁度測定と金属分析のための前処理を行った。試料は表面の汚染を除去した後、室温で融解させた。融解水の一部を用いて濁度計により濁度を測定した。残りの試料については融解水中の粒状物を全て回収し溶液化するため、全量を蒸発乾固させた後、残渣を硝酸とフッ化水素酸を用いたマイクロ波分解法で全分解した。得られた溶液のAl濃度をフレームレス原子吸光分析法により、Na、Mg、Ca濃度 をプラズマ発光分析法により測定し、それぞれの金属成分のコア中全濃度を得た。本年度は、ウシュコフスキーコアについての測定は全て完了し、Site-Jコアについては、濁度測定と全分解処理まで終了した。ウシュコフスキーコア中のAl全濃度は70〜6000ppbの範囲にあり、南極ドームふじコアにおける値と比べると2〜3桁も大きい値であった。ウシュコフスキー氷河にはアジア砂塵などに代表される陸起源鉱物粒子の輸送・堆積が南極氷床に比べて多いこと、コア採取地点の南東14km地点にあるベズィミヤニィ火山をはじめ、カムチャッカ半島に存在する多くの火山を起源とする火山灰の降下堆積の寄与が大きいことなどを考えると妥当な値といえるかも知れない。ウシュコフスキーコア中のFe/Al濃度比は大部分の試料については0.5〜0.6の範囲にあり、この値は平均地殻組成比に近いものであった。しかしながら、時々、2〜3という高いFe/Al比を示す試料があり、平均的岩石組成に比べて鉄に富んだ鉱物エアロゾルが突発的に混入した可能性を示している。ウシュコフスキーコアにおける濁度は0.1〜30の範囲にあったが、グリーンランドSite-Jにおけるその範囲は0.1から3程度であった。このことからもウシュコフスキー氷河には火山起源エアロゾルの突発的な輸送・降下の影響が現れていることがわかる。来年度の継続研究ではSite-Jコアの分析を完了させ、北半球におけるエアロゾル輸送記録と気象・環境要因の変化との関連性について考察を進める予定である。また、将来的には、アジア、ヨーロッパ、アラスカ等で得られている雪氷コアの解析、SEM-EDSやラマン分光によるコア中粒子の化学形態解析等も行い、北半球エアロゾル輸送の地域変動や供給源変動も明らかにする予定である。
　　
成果となる論文・学会発表等 今井寛和， 鈴木利孝， 飯塚芳徳， 本山秀明， 藤井理行， ドームふじ氷コア中金属成分が示す気候変動に伴う地殻風化過程の変遷， 第2回極域科学シンポジウム（第34回極域気水圏シンポジウム）， 国立極地研究所， 東京， 2011.
鈴木利孝， 氷コア中の金属成分分析， 2011年度日本雪氷学会雪氷化学分科会， ハイブ長岡， 長岡， 2011.
今井寛和， 鈴木利孝， 飯塚芳徳， 本山秀明， 藤井理行， 南極ドームふじ氷コアから探るエアロゾル気候変動-金属測定によるエアロゾル供給源変化の解析-， 2011年度雪氷研究大会， ハイブ長岡， 長岡， 2011.