共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

山岳地域における降雪-積雪-融雪過程の雪氷化学的研究
新規・継続の別 継続(平成22年度から)
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 鈴木啓助

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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石井吉之 北大低温研

研究目的  山岳地域は、温暖化や酸性降水などの地球環境変動に対して極めて敏感に反応すると考えられる。山岳地域における水循環および物質循環に対して、それら地球規模の環境変動が、如何に影響するのかを解明することが本研究の目的である。まず、山岳地域の水および化学物質の循環過程を解析し、それらへの地球環境変動の及ぼす影響を解明する。
 山岳地域に冬期間に積雪として大量の水が天然のダムとなって蓄えられ、暖候期に融けて流下することにより、山岳地域の雪は、水資源としてや植物の生育環境にとっても重要な役割を果たす。地球環境変動によって山岳地域の雪の質や量がどのような影響を受けるのかを議論することが必要である。
  
研究内容・成果  北アルプス西穂高岳付近の標高2352 m地点で2010年1月11日に積雪試料を採取し,山岳地域における冬季降水量を雪氷化学的手法により推定した.降雪の化学特性のひとつめは,降雪中のNa+濃度と対流混合層の高さとの間に良好な相関が認められることである.つまり,降雪中の海塩起源物質濃度は冬型の気圧配置時に高くなる.ふたつめは,降雪中の人為起源の酸性物質濃度は南岸低気圧や日本海低気圧による降水で高くなることである.さらに,降雪中の酸性物質の割合は低気圧性の総観場で高くなる.積雪深が399 cmの積雪層から化学的に特徴的な9層が抽出された.そのうち,3層は冬型の気圧配置によってもたらされ堆積したと考えられ,他の6層は低気圧性の雪雲によってもたらされたと考えられる.それぞれの層が形成されたと考えられる日付が,気象条件を参照して同定された.次に,隣り合うふたつの層の間の8期間の積雪水量を算出し,気象庁による観測降水量と比較検討した.その結果,積雪水量は調査地域の北西の観測地点における期間降水量との相関が高く,南東の観測地点の期間降水量とは良好な相関が認められなかった.これらの関係は,調査地域における冬季の気象条件を考慮すれば妥当な結果である.
  
成果となる論文・学会発表等 鈴木啓助・池田 敦・兼子祐人・鈴木大地・槇 拓登(2011):雪氷化学的手法による山岳地域の冬季降水量算定.雪氷(日本雪氷学会誌),73,281-294.

石井洋之・鈴木啓助(2011):日本における降雪深変動の地域性とその要因.日本水文科学会誌,41,27-37.

Suzuki, K. (2011): Effects of global warming on climate conditions in the Japanese Alps region. Planet earth 2011- global warming challenges and opportunities for policy and practice, ed. Carayannis, E. G., Intech, Croatia, 73-88.