共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

霜柱クリープ及びジェリフラクションの実験的研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 埼玉大学地圏科学研究センター
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 瀬戸真之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

田村俊和 立正大学 教授

2

曽根敏雄 北大低温研

3

森 淳子 北大低温研

研究目的 森林限界以下の低標高な山地斜面では周氷河性物質移動が十分に起こりうるポテンシャルを持ちつつも,植生によって地表が覆われているために通常は周氷河性の物質移動プロセスが活発に起こることは少ない.しかし,強風や人為の影響により植生が破壊されると季節的凍土が出現したり,周氷河性のマスムーブメントが卓越するようになり,いわゆる高山環境と良く似た景観を呈するようになる.本研究では,このような景観を形成する主として冬季の物質移動プロセスについて,これまでの室内実験および野外実験における凍結・融解に起因した礫の実験データを詳細に解析し,より具体的な物質移動プロセスを明らかにすることを目的とする.
  
研究内容・成果 (1)野外実験
 福島県御霊櫃峠における野外実験の結果,観測年や測線の一般的傾斜と冬季における地表物質の平均移動距離,最大移動距離との間に相関は見られなかった。そこで地表面をFタイプ(細粒物質)とCタイプ(粗粒物質)とに区分し,それぞれのタイプで区間長,面積,平均移動距離,最大移動距離を求めた。この結果,CタイプよりもFタイプの方が平均移動距離や最大移動距離が大きい傾向が見られた。
 今後の課題として,CタイプとFタイプとで,それぞれの地表面温度,地温および傾斜を観測し,それぞれのタイプでどのような違いがあるかを明らかにしていきたい。このことから地表面の状態の微細な違いが物質移動にどの程度影響しているかについて議論を深めることができると考える。

(2)室内実験 
 実験は発砲スチロール製の箱に厚さ約10cmの土壌を入れた箱Aと箱Bを用意した.傾斜は10度とし,福島県御霊櫃峠の砂礫地で採取した厚さ2cm程度の扁平礫を1つの箱につき,2個置いた.各礫の表面には×印を2カ所付け,この交点の移動を観測した.礫の位置測定にはノギスを用いた.この方法では,測定者が慣れれば±1mm程度の精度で測定できると考えられる.さらに実験斜面の土層中には-3,-5,-8cmにそれぞれ地温センサーを設置し,-3,-5,-8cm深に土壌水分計を設置した.箱Bの斜面には雪を想定して細かく砕いた氷を1〜2cmの厚さで載せた.箱に入った土壌を凍結融解させた結果,礫は斜面下方に向かって移動した.この時,Z方向への持ち上がり,すなわち凍上量とY方向への移動,すなわち斜面下方への移動には正の相関が認められた.Z方向への移動の大部分は霜柱が礫を持ち上げていることによる.したがって,いわゆる霜柱クリープが実験斜面上で発生し,移動量の一部は霜柱クリープによるものと考えて良い.しかしながら,礫が土中に沈み込むようなZ方向のマイナスの動きや,霜柱が実験で立たなかったケースもあった.したがって記録された礫の移動には複数のプロセスが関与していることが明らかである.
 今後はさらにデータを解析し,一連の凍結融解サイクルの中で,どの様な現象が,どのタイミングで起きているのかを明らかにしたい.
  
成果となる論文・学会発表等 M. SETO, T. TAMURA, et al. Dynamics of wind-beaten bare ground under seasonal periglacial environment. The 8th East Asia International Workshop, Chengdu, China