共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

レーザーブレークダウン発光分光法を用いた極地氷床コア中の微量不純物分析技術の開発
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 (財)レーザー総研
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 櫻井俊光

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

藤田雅之 レーザー総研 主席研究員

2

染川智弘 レーザー総研 研究員

3

飯塚芳徳 北大低温研 助教

研究目的 1.本研究は、低温研氷コア解析システムを利用して、南極Dome Fuji氷床コア540mに含まれる微粒子の化学組成解析を行うことを目的としている。540mコアは、最終氷期最大期であり、比較的不純物が多く含まれる。また、Iizuka et al.(2008)によって、すでに2mmの高年代分解能解析におけるイオン分析が完了している。そのため、同サンプルは、今後のレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)の評価を行いやすいメリットがある。
2.本研究は、LIBSを利用した微粒子の元素組成を明らかにすることを目的としている。しかし、当研究所にはまだCryostatは備え付けていないため、まずは常温における無機塩の水溶液を利用して計測する。
MRSより得られた微粒子の化学組成(Dome Fujiコア540m) NaCl水溶液(1wt%)のSRS-LIBSスペクトル 
研究内容・成果 1.低温研氷コア解析システム・顕微ラマン分光装置(MRS)を利用して、南極Dome Fuji、540mコアを1cm分解能で5サンプル(計5cm)分析した。その結果、CaSO4・2H2Oが2-3割、CaSO4・2H2Oとダストの混合微粒子が1-2割、硝酸(液体と固体)とCaSO4・2H2Oやダストの混合微粒子が1割、540.765~540.775mでは5~6割存在していることが解った(図1)。ここで、強調しておきたいことは、1)CaSO4・2H2Oは、常にダストと混合していない、2)硝酸、特に液体の硝酸のほとんどは、ダストやCaSO4・2H2Oなどと混合して見つかっている、点である。
1)これまで、カルシウムイオン(Ca2+)はダストと同じ起源と仮定されてきた。また、Ca2+のほとんどは、CaSO4・2H2Oとして存在していることが明らかになった(Sakurai et al., 2011)。今回得られた結果から、CaSO4・2H2Oは常にダストと混合していないことを考慮すると、Ca2+とダストは、分けて古環境を復元すべきものであり、必ずしも同じ起源である必要はないことを示唆している。
2)-1 硝酸は、高いエネルギーの宇宙線により、成層圏で生成されることが言われている。しかし、硝酸が生成されてから氷床表面に堆積するまでの過程は明らかになっていない。今回得られた結果から、硝酸の多くがダストやCaSO4・2H2Oと混合している点を考慮すれば、成層圏を通過したダストやCaSO4・2H2Oが硝酸を付着して氷床表面に堆積した構図が浮かび上がる。
2)-2 氷多結晶内における液体の硝酸は、結晶粒界(特に三叉粒界)に存在していることがFukazawa et al. (1998)によって解っている。界面エネルギーのつり合いを考慮すれば、液体の硝酸は、微粒子と氷の界面に平衡状態として存在できると考えられる。そのため、液体の硝酸であっても、氷多結晶内の結晶粒界を拡散するのではなく、微粒子に付着した状態で氷床内に保存していることが十分に考えられる。

2.短パルスレーザーを用いてLIBS計測を行った。試料はNaCl水溶液(1wt%)である。構成は、光軸から5°程度ずらした角度から前方散乱をファイバーで観察した。分光器はシングルモノクロメータ(グレーティング600g/mm, 逆線分散2.4nm/mm、スリット幅100nm)である。検出器は最短ゲート幅2ナノ秒のICCDカメラを利用した。
その結果、NaCl水溶液から、ナトリウム(Na+)のD線(589nm)が観測された。また、650nmにO-Hラマン散乱を観測した(図2)。レーザー強度を考慮すると、非線形にO-Hラマン散乱強度が増加していることから、このO-Hラマン散乱は、誘導ラマン散乱(SRS)であることを確認した。SRSの信号は、数ナノ秒のうちに非常に高い強度で観測される。そのため、これまでのMRSよりも格段に高い効率で微粒子の化学組成と、LIBSから元素組成も同時に計測することが可能となる。今後、本研究は、SRS-LIBSの同時計測による微粒子の組成解析を進める予定である。
MRSより得られた微粒子の化学組成(Dome Fujiコア540m) NaCl水溶液(1wt%)のSRS-LIBSスペクトル 
成果となる論文・学会発表等 Toshimitsu Sakurai, Hiroshi Ohno, Shinichiro Horikawa, Yoshinori Iizuka, Tsutomu Uchida, Kazuomi Hirakawa, Takeo Hondoh, The chemical forms of water-soluble microparticles preserved in the Antarctic ice sheet during Termination I, Journal of Glaciology, 57(206), 1027-1032, 2011.