共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

淡水湖沼の深底部における低酸素化と硫黄関連細菌の動態に関する研究
新規・継続の別 継続(平成21年度から)
研究代表者/所属 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
研究代表者/職名 総合解析部門長
研究代表者/氏名 西野麻知子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石川可奈子 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 主任研究員

2

中島拓男 元滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 琵琶湖研究部門長

3

福井学 北大低温研 教授

4

小島久弥 北大低温研 助教

5

根本富美子 北大低温研 大学院生

研究目的 1980年代までの富栄養化と1990年代以降の地球温暖化の急速な進行に伴い、比較的深い湖の深水層の低酸素化が問題となっている。そして、1991年琵琶湖で初めて硫黄酸化細菌チオプローカが大量に発見された。チオプローカは微好気性の大型糸状細菌であり、湖底の低酸素化に伴う環境変化を示す指標となり得るのか注目されている。
 そこで、本研究では、湖沼の温暖化および深水層の低酸素化に伴う淡水産硫黄関連細菌群の生態特性と環境変化への応答機構を解明することを目的とし、大量のチオプローカ群集が発見された琵琶湖をケーススタディーとして、硫黄関連細菌群集の動態調査を行う。
Fig. 1 琵琶湖における調査地点 Fig. 2 琵琶湖底泥におけるチオプローカの現存量 (2009年6月左および11月右:単位μm/cm2)  Fig. 3 チオプローカ現存量の変化
研究内容・成果 本研究は、2009年度から3年間の継続研究であり、1年目は2009年6月および11月に琵琶湖の17地点(Fig. 1)におけるチオプローカの広域的な分布調査を行った。その結果、貧酸素になりやすい地点(第一湖盆の湖心:N4および完全嫌気になる浚渫窪地:Yabase)でチオプローカの現存量が少ないことがわかった(Fig. 2)。2年目の2010年度は、1年目に採取した底泥の細菌群集をPCR-DGGE (Denaturing Gradient Gel Electrophoresis:変性剤濃度勾配ゲル電気泳動) 法を用いて解析した。微好気〜嫌気環境において酸素濃度に敏感に反応しやすいと思われる硫酸還元菌のdsr B遺伝子をターゲットとしたPCR-DGGEによる解析において、6月と12月でバンドパターンの違いが見られた。同じく貧酸素になりやすい地点では、特徴的なバンドパターンを示し、硫酸還元菌群集の組成は、その他の地点と異なることがわかった。また、3年目の2011年度は、1990年代後半〜2000年に行った調査結果を含め、琵琶湖の深底部の環境変遷との関係からチオプローカの長期的消長について考察を行った。第一湖盆の湖心(水深90m)では、琵琶湖環境科学研究センター環境監視部門のモニタリングにおいて湖底-1mの溶存酸素濃度が2007年10月に0.3mg/L, 2008年11月に0.5mg/Lを記録し、モニタリング史上過去最低の濃度となった。1997年と2009年に行ったチオプローカの現存量を比較すると2009年の11月に少ない傾向が見られた(Fig. 3)。また、1997年の調査時に水深30m以深では底泥表面0-2cmでは10^5〜10^6μm/cm2で一様だった分布が2009年の調査では不均一な分布へと変化し、全体的にチオプローカが減少している。近年、琵琶湖北湖沖帯の透明度は上昇傾向にあり、湖水の富栄養化も改善されつつあるが(Hayakawa et al. 投稿中)、過去の外部負荷および有機物分解による酸素低下につづき、温暖化に伴う湖の成層期間の長期化等による湖底直上の酸素の低下に直面する環境下において、減少要因を明確に示すことは難しいが、特に、貧酸素になりやすい地点、主に第一湖盆の湖心部では、微好気性のチオプローカにとっても生息が厳しい状況になっていると考えられる。10年前そして3年間の調査において、チオプローカの短期的な年間変動パターンは明確でなかった。つまり、チオプローカの増殖は極めて遅いと考えているが、このことが現存量の変化と環境条件の関係解析を難しくしてきたようである。本研究によって、琵琶湖において長期的な湖の深底部の低酸素化とチオプローカの現存量の関係性が大まかではあるが見えてきた。今後は、この第一湖盆エリアおよび周辺の状況が大きく変化した頃、追跡調査を行うのが望ましいと考えられた。
Fig. 1 琵琶湖における調査地点 Fig. 2 琵琶湖底泥におけるチオプローカの現存量 (2009年6月左および11月右:単位μm/cm2)  Fig. 3 チオプローカ現存量の変化
成果となる論文・学会発表等 石川可奈子・中島拓男・石川俊之・小島久弥・福井学 ・西野麻知子「琵琶湖深水層の低酸素化と底泥の細菌群集の変化」日本陸水学会第76会大会(松江)ポスター発表 2011年9月 
焦春萌・青木眞一・奥村陽子・南真紀・矢田稔・石川可奈子・中島拓男・石川俊之・辻村茂男 (2011)「琵琶湖の低酸素化の実態把握および北湖生態系に与える影響の把握に関する解析モニタリング-琵琶湖の低酸素化の実態およびその生態系に与える影響- 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 研究報告書 第7号 平成20〜22年度 p173-175.
石川可奈子・古田世子 (2012) トピック「チオプローカとメタロゲニウム」琵琶湖ハンドブック 印刷中