共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北海道沿岸河口域における物質動態に関する検討
新規・継続の別 継続(平成21年度から)
研究代表者/所属 金沢大学環日本海域環境研究センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 長尾誠也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山本政儀 金沢大環日センター 教授

2

三寺史夫 北大低温研

3

関 宰 北大低温研

研究目的 寒冷域の湿原は、有機態炭素の貯蔵域として作用するとともに、海洋の生物生産に必要な微量必須元素の鉄の供給源として重要である。本研究では、北海道の湿原から河川へ供給される鉄の河口域周辺での挙動をフィールド観測により詳細に把握し、海洋へ移行する有機物と鉄の形態を明らかにすることを目的に、北海道東域の別寒辺牛川と厚岸湖をフィールドに、2009年8月、2011年11月、および2012年2月に堆積物の調査を実施した。
図1 厚岸湖表層堆積物有機物のTOC含有量、C/N比、炭素・窒素同位体比 図2 厚岸湖(●)、別寒辺牛河床堆積物、河岸土壌有機物(○)の炭素・窒素同位体比 図3 厚岸湖、十勝沖、噴火湾表層堆積物の炭素・窒素同位体比
研究内容・成果 厚岸湖では北海道大学厚岸臨海実験所所属の調査船えとぴりか号に乗船し、2009年8月18日に7測点で表層堆積物はエクマンバージ採泥器により採取した。2011年10月18日にはドルフィン2号により2測点(AK-5, AK-18)、2012年2月7日には氷上より測点AK-40でグラビティーコアラーにより柱状試料を採取した。
 堆積物の有機炭素、全窒素含有量は、1M塩酸処理した試料について、乾燥粉末化後に元素分析計で測定した。有機炭素含有量と全窒素含有量との比はモル比で表した。また、有機物の炭素同位体比(13C/12C)、全窒素の窒素同位体比(15N/14N)は質量分析計で測定し、それぞれ、δ13C値、δ15N値として表した。
 厚岸湖底の表層堆積物(0-1 cm)の測定値は図1に示した。厚岸湖奥の4測点(AK-8、AK-21、AK-27, AK-40)では、全有機炭素含有量が0.79〜2.95%、C/Nモル比は9.4〜12.5と湾央・南湾に比べて高く、δ13Cは –27.3〜–24.9 ‰、δ15Nで4.0〜5.8 ‰と低い値を示した。この結果は、別寒辺牛川河口域とその沖合では、陸起源有機物の沈着が卓越していることを示している。湾央・南湾では、全有機炭素含有量が1.53〜2.09%、C/Nモル比は7.5〜8.2、δ13Cは –21.5〜–18.7 ‰、δ15Nで6.9〜7.5 ‰と、これまでの海洋起源有機物の報告値と一致する結果であった。
 図2には、厚岸湖表層堆積物と別寒辺牛川河床堆積物、河岸土壌有機物のδ13Cと C/Nモル比、δ13Cとδ15Nとの関係を調べた。δ13Cと C/Nモル比には負の良い相関(相関係数0.90)、δ13Cとδ15Nには正の相関関係(相関係数0.90)が存在し、陸起源有機物と海洋起源有機物との単純な二成分の混合により構成されていることがわかる。
 図3には、厚岸湖湾央・南湾表層堆積物と十勝沖・噴火湾表層堆積物のδ13Cとδ15Nをプロットした。図を見て明らかなように、厚岸湖表層堆積物では、十勝沖と噴火湾に比べてδ13Cは低く、δ15Nは2‰程度高い。厚岸湖での平均値は、δ13C –19.4 ± 0.4 ‰、δ15N 6.7 ± 0.5 ‰と植物プランクトンに相当する値である。このことは、厚岸湾央・南湾では、海洋起源有機物が卓越し、陸起源有機物の堆積は殆ど起きていない、あるいは少量であることが考えられる。つまり、陸起源有機物は別寒辺牛河口で大部分は沈着し、湾央部まで移動していない可能性が考えられる。
 今後は、厚岸湖内で採取した柱状堆積物試料の堆積速度の見積もるとともに、有機物、鉄含有量を測定し、過去から現在までの別寒辺牛湿原からの鉄と有機物の供給量、湖内での生物生産量の変動を解析し、流域環境の変動と植物プランクトン等の生物生産量との関係を検討する予定である。
図1 厚岸湖表層堆積物有機物のTOC含有量、C/N比、炭素・窒素同位体比 図2 厚岸湖(●)、別寒辺牛河床堆積物、河岸土壌有機物(○)の炭素・窒素同位体比 図3 厚岸湖、十勝沖、噴火湾表層堆積物の炭素・窒素同位体比
成果となる論文・学会発表等 北海道新聞記事 2011年10月28日 朝刊 釧路根室版
湿原の恵み解明へ 金沢大と北大低温研 厚岸で環境変化調査