共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北大構内・植物園におけるハナバチ多様性の30年に亘る遷移
新規・継続の別 継続(平成22年度から)
研究代表者/所属 那須塩原市動植物調査研究会
研究代表者/職名 副会長
研究代表者/氏名 松村 雄

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

滝 久智 森林総合研究所 研究員

2

戸田正憲 北大低温研

研究目的  ハナバチ類は陸上生態系で授粉者として植物と共進化し重要な機能を果たしているが、近年の地球環境変動に伴い、この共生系の崩壊が危惧されている。故坂上昭一先生は、北大構内及び植物園で1959・1979・1989年の3シーズン、ハナバチ類とその訪花植物を定期調査され、膨大なハナバチ類標本を未整理のまま残されて他界された。調査地はこの間都市化により環境改変が急速に進み、生物群集も大きく様変わりしたと想定される。しかし、昆虫と植物の両群集の長期的変動を探求した研究例はほとんどなく、この際再現不可能な過去の諸情報を含む坂上コレクションの同定整理・解析を進めて、保全生態学上有用な生物多様性情報を得ることを目的とする。
  
研究内容・成果  1)公表された1959年の調査結果では(Sakagami & Fukuda,1973)、採集されたハナバチ総種数102種の中で種名確定種は49種(48%)だけで、未確定の53種は種名仮番号が付されている。種構成や個体群の変動を比較するために、未確定種の種名を可能な限り解明する必要がある。近年ハナバチ類の分類学的研究が著しく進展し、また、分類専門家の協力により、予想以上の成果が上がり、新たに33種の種名が解明された。その結果、確定種数は82種(82.8%)となり、未確定種数は15種(3種は統合され、2種は疑問種)だけになった。
 2)1979年北大構内・植物園調査で得られた6千個体に及ぶハナバチ標本の同定がほぼ終了し、標本ラベルに記された採集月日・場所・訪花植物等のデータをコンピュータへ入力する作業が最終段階に達した。本格的分析を進める前に、使用種名の妥当性、誤同定のチェック、紛らわしい種群の再検討などのデータ内容確認作業がまだ必要であるが、取りあえず現時点で把握できるハナバチ多様性の概要を以下に記す。
 1979年のハナバチ多様性(個体数/種数)は、北大構内2,819/65、植物園3,216/81、両地域合わせて6,035/96であった。1959年の結果では、北大構内3,099/77、植物園3744/85、両地域合わせて6,843/102であったので、生物群集としては個体数、種数とも20年間の減少は予想ほどには大きくなかった。ハナバチ種構成と種個体群の変動を軸として、気象変動要因、土地利用による活動可能域面積の変動、樹木の成長に伴う林相の変化、都市化に伴う周辺市街地の変化など巣場所や訪花植物の生育域に及ぼす環境要因及び利用訪花植物の推移を変動係数にして解析を進めている。1959・1979両年に採集されたCrisodon sp.(ミツバチ科)は過去に国内他地域では未確認の新記録種であり、今後分類学的検討を要する希少種である。  
 3)今回1979年調査標本の同定整理に予想以上の時間が掛かり結果の公表まで到らず、1989年調査標本の整理まで手を付けることができなかったので引き続き作業を進める。しかし、1979年調査結果は解析の目途が立ったので、今後成果を纏めて順次公表の予定である。そして、北大構内・植物園における30年間に亘るハナバチ多様性の推移を解明し、保全生態学上役に立つ情報を得て今後のハナバチ多様性保全に役立てる。
  
成果となる論文・学会発表等