共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

細菌細胞の試験管内と自然環境下でのストレス応答の比較解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 笠原康裕

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

朝井計 埼玉大理学部 准教授

2

三井久幸 東北大生命科学研究科 准教授

研究目的 環境プロテオーム解析により、環境現場に生息した細菌の生理状態を把握、理解できるようになってきた。これまで、細菌細胞の環境ストレス応答は試験管内で解析してきているが、本来細菌が生存すべき生息環境下では、様々な物理的・化学的・生物的ストレスがあり、試験管内での画一的研究では、細菌の環境適応、生存戦略は理解できない。そこで、細菌の環境ストレスの生理学的・遺伝学的応答機構を、自然環境下のストレス応答と比較解析をするためのプロテオーム解析の可能性を探る。
  
研究内容・成果 細菌の環境ストレスの生理学的・遺伝学的応答機構を、試験管内と自然環境下のストレス応答と比較解析をするためのプロテオーム解析の可能性を探るための意見交換を行った。
朝井 計(埼玉大院理工)「極限環境Bacillus属細菌の環境応答ECFシグマ因子制御系の比較解析」
グラム陽性胞子形成土壌細菌のモデル微生物である枯草菌(Bacillus subtilis)はECFシグマ因子を7つ有する(それぞれsigM、sigV、sigW、sigX、sigY、sigZ、ylaC遺伝子にコード)。多くは熱、高塩、pH、有機溶媒、酸化、細胞表層抗生物質、栄養飢餓などのストレス応答に関わり、これをシグナルとして活性化する。近年、枯草菌と近縁であるBacillus 属関連種のゲノム配列が決定され、ホモロジーから多数のECFファミリーシグマ因子を有することが判明した。これらのBacillus 属関連種には高・低温、高・低pH、高圧、高塩濃度などの様々な極限環境から分離された細菌がある。枯草菌のようなmesophileにとってはストレスとなる条件が極限環境微生物にとっては至適環境である。そこで、ECFシグマの解析を通して極限環境微生物(好アルカリ性、好熱性、高度耐塩・好アルカリ性)のストレス応答の解析を試み、環境応答との関連性を紹介した。
三井久幸(東北大院生命科学)「根粒菌のストレス応答メカニズムと共生窒素固定」
環境ストレスに応答したヒートショックタンパク質Hspの発現誘導には、単一の転写因子が主要な役割を果たしている。大腸菌では、RNAポリメラーゼのシグマ因子σ32 (rpoH遺伝子産物) がそれに該当する。その相同遺伝子はグラム陰性細菌に広く保存されており、アルファルファ根粒菌Sinorhizobium melilotiのゲノムには2つの相同遺伝子rpoH1、rpoH2が存在する。各遺伝子の変異株およびrpoH1rpoH2二重変異株では、野生株で見られる多数のHspの発現誘導が消失するものの、大腸菌rpoH変異株のような顕著な高温感受性は生じない。他方、アルファルファに接種すると、rpoH1変異株では小さな根粒が形成されるが有効な窒素固定が行われず、更にrpoH1rpoH2変異株では根粒形成そのものが損なわれる。そこで、野生株とrpoH1rpoH2変異株との間でのトランスクリプトームの比較解析や、根粒菌細胞内のRpoH1/RpoH2レベルの定量解析より、根粒菌RpoH1/RpoH2の大腸菌σ32との役割・制御様式の違いや、共生成立に重要な原因などが徐々に明らかとなってきた。根粒菌のストレス応答メカニズムと共生窒素固定との関係を紹介した。
 徐々に明らかになってきた枯草菌や根粒菌の環境応答シグマ因子制御やそのメカニズムが試験管内から生息環境の土壌に移ったとき、どのように行われるのか?次につながる研究や解析法の道筋を立てることができた。
  
成果となる論文・学会発表等