共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

分子スケールでのタンパク質結晶の成長機構の観察
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 立命館大学 薬学部
研究代表者/職名 ポスドク研究員
研究代表者/氏名 山下基

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐崎元 北大低温研

研究目的 氷や雪の結晶成長機構の解明は防災研究の上で非常に不可欠である一方、氷雪の結晶成長は温度・湿度などのわずかな条件の違いで大きく変化するため、結晶化の駆動力を再現性良くコントロールするのが困難であり、結晶化駆動力をコントロールしやすいモデル系の研究が重要である。本研究では、氷雪の極限状態での成長機構解明のモデル系として、タンパク質の結晶成長を扱う。
リゾチーム正方晶の笹の葉状の結晶表面核  
研究内容・成果 本研究では、氷雪の極限状態での成長機構解明のモデル系として、タンパク質の結晶成長を扱う。タンパク質結晶成長は成長単位が大きいため分子レベルでの可視化が容易であり、成長速度が小さいためにモルフォロジーの観測と成長キネティクスの定量化を精度良く行うことが可能である。
本研究ではユビキチンタンパクとリゾチームタンパクをターゲット物質とした高圧下での結晶成長を行う。レーザー共焦点微分干渉顕微鏡や位相差顕微鏡を用いることで、結晶成長面上の1分子スケールでのステップ(=1分子ステップ)を容易に可視化することが可能である。結晶の成長と溶解によって生じる1分子ステップの前進・後退挙動をその場観察によって時系列で記録することにより、高圧環境下でのリゾチーム正方晶、ユビキチン三方晶・直方晶の分子ステップのモルフォロジーの時間発展挙動の観測を行った。

(1)リゾチーム正方晶
リゾチーム正方晶では、曲率を有する1分子ステップから形成された笹の葉状の表面成長核および表面溶解核が結晶成長時および溶解時にそれぞれ観測された。これは、佐崎らによって報告されたものと一致している。

(2)ユビキチン正方晶
 結晶化・溶解の駆動力がやや大きい場合には、リゾチーム正方晶に類似した、曲率を有する1分子ステップから形成された笹の葉状の表面成長核・溶解核が観測された。これは、リゾチーム正方晶と結晶の対称性が同じであることを反映している。
結晶化・溶解の駆動力が弱い場合には1分子ステップの形状は曲線から直線へ変化し、表面成長核・溶解核は笹の葉状からひし形へと変化することが観測された。ステップ形状の変化は、結晶化・溶解の駆動力の減少によってステップの自由エネルギーが増大したことを示している。
また、結晶溶解の駆動力が非常に大きい場合には、ステップの形状は大きく波状に乱れが生じ、さらに波状に乱れたステップが多重に集まったバンチング現象が生じることが観測された。

(3)ユビキチン直方晶
 観測された範囲内において、1分子ステップの形状は直線状であった。大気圧下でポピュラーに形成される正方晶に対して直方晶は高圧環境下でより形成されやすいことがこれまでの我々の研究で明らかになっている。このことから直方晶中のユビキチンは正方晶中と比較して部分モル体積が小さく、分子パッキングがより密である可能性が高く、隣接するタンパク分子間の引力相互作用が大きくなることが考えられる。その結果、ステップ自由エネルギーが高くなり1分子ステップの形状が直線になったと推察される。
リゾチーム正方晶の笹の葉状の結晶表面核  
成果となる論文・学会発表等