共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

数値モデルとドップラーレーダーデータを用いた雪雲の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象庁気象研究所
研究代表者/職名 室長
研究代表者/氏名 山田芳則

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小西啓之 大阪教育大学 准教授

2

吉本直弘 大阪教育大学 准教授

3

中井専人 防災科学技術研究所雪氷防災センター 総括主任研究員

4

藤吉康志 北大低温研

研究目的 冬期に出現する雪雲の構造に関しては現在でも解明されていないことが多い。降水システムの解明にとって必要不可欠な手段である数値モデルとドップラーレーダーを用いて、北海道に出現するさまざまな雪雲の構造を総合的に解析する。また、数値モデルの改良や開発、及びドップラーレーダーデータから精度の良い3次元気流構造の解析システム等の高度化に向けた開発も合わせて行う。
  
研究内容・成果 1.2010年1月17日に北海道の西岸に出現し、石狩地方に大雪をもたらした帯状雲(西岸帯状雲)の形成機構を明らかにするため、水平解像度 5 km の気象庁非静力学モデルを用いた実験を行うとともに、気象庁レーダーやアメダスデータ、衛星画像、高層観測データの解析も合わせて行った。この西岸帯状雲の形成は、衛星やレーダー画像によれば利尻島・礼文島付近において16日 17 - 18 JST 頃である。その後、帯状雲は次第に発達して、長さや幅、反射強度を増しながら 17 日 00 JST 頃には石狩平野に到達した。このとき帯状雲の走向は、宗谷地方の沖から暑寒別岳付近の沖合までほぼ南北方向であり、帯状雲の長さは約 250 km, 幅は約 30 km であった。この帯状雲の南端付近が石狩湾から石狩平野に進入し、大雪をもたらした。
 非静力学モデルの実験結果によれば、樺太から稚内付近の上空を通って北海道上空に流入する低相当温位の空気 (高度約 1 km 以下) と北西の季節風とが北海道の沖合で収束し、この収束域に対応して西岸帯状雲が形成されていた。この収束域は時間とともに長さが南に延び、これに対応して西岸帯状雲は長さを増していった。この冷たい北風の流入は、オホーツク海上に停滞していた小低気圧が南東進したことと関連している。西岸帯状雲が出現している間、北海道の西岸では冷たい陸風が日本海上に吹き出し、この陸風と季節風との収束も西岸帯状雲の形成に寄与していたのではないかと推定される。利尻島や礼文島は西岸帯状雲の形成には影響していないが、メソスケールの渦状構造への寄与の有無を議論するためには、モデルの解像度をさらに上げた実験が必要である。2005年から2010年までの間に出現した西岸帯状雲数例について同じ水平解像度で数値実験を行った結果、形成機構はほぼ同じであることを確認した。ただし、西岸帯状雲の長さや幅、組織化、降雪強度等は事例ごとに異なっていた。

2.複数のドップラーレーダーデータから精度よく3次元気流構造を算出する上で極めて重要な処理の一つである、ドップラー速度データの品質管理の処理において、質が悪いと判断されたデータを再度点検するためのアルゴリズムを追加した。これによって速度データの品質管理性能が格段に向上した。

3.これまで北大・低温研共同研究で開発してきた高精度の風算出方法をオホーツク沿岸部に設置されている2台のドップラーレーダーによるデュアル解析に適用して、オホーツク海上に出現する渦状擾乱内の小さな渦の構造を解析した結果、水平スケールが数 km の小さな渦を解析できることがわかった(院生が修士論文としてまとめた)。この結果は、単一のドップラーレーダー観測による渦の検出アルゴリズムの精度と妥当性をデュアル解析によって検証できる可能性を示している。
  
成果となる論文・学会発表等 山田芳則、藤吉康志、2010: 北海道西岸帯状雲の形成機構に関する数値実験、2010年度日本気象学会秋季大会 (C361)(口頭発表)