共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

生存環境に依存した昆虫の体色多形性発現の基礎機 構の解明
新規・継続の別 継続(平成21年度から)
研究代表者/所属 信州大学繊維学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 白井孝治

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石田拓郎 信大院総合工学系研究科 修士1年

2

林 律元 信大繊維 4年生

3

鵜之沢英理 信大繊維 4年生

4

落合正則 北大低温研

研究目的  エビガラスズメ(Agrius convolvuli)緑色幼虫の基本体色は主にAcINSとeCBPの2種の色素結合タンパク質が真皮細胞中に蓄積するためである。しかし、これらのタンパク質は共に分泌タンパク質であるため、通常生合成後すぐに細胞外へ分泌される。したがって細胞内に蓄積されるには特別な機構が必要となる。 これまでの研究からエビガラスズメ緑色幼虫の真皮細胞において色素結合タンパク質が分泌制御を受けることが示唆されている。本研究では、まずエビガラスズメ緑色幼虫の真皮細胞中の分泌顆粒で色素結合タンパク質の特異的選別に関与すると思われるCgAホモログXの存在の有無を調査した。
  
研究内容・成果  本研究では、まず緑色幼虫の真皮細胞より分泌顆粒の単離し、そのタンパク質成分を分析した。その際、分泌顆粒の内容物画分と膜画分のタンパク質成分を分けて解析している。その結果、可溶画分からは主要成分としてAcINSが検出された。よって、高純度に分泌顆粒を単離できたと判断される。一方、不溶画分には予想に反し多数の成分が認められた。主要成分は9種類存在した。これらの中にAcINSおよびeCBPの特異的選別や分泌制御に関与する成分が含まれると考えられるが、現時点では不明である。次に、AcINSを用いて調節性分泌経路への選別機構についての研究を進めた。
 現在、選別にはグラニンファミリーのタンパク質、CgAが関与することが多いことが知られている。CgAは酸性の可溶性タンパク質で、分子量約20,000-80,000、弱酸性条件下で自己凝集するという性質を持つ。しかし、エビガラスズメから採取した分泌顆粒の可溶性画分(内容物)にはCgAと思われるタンパク質バンドは検出されなかった。CgAは通常分泌顆粒内に比較的高濃度で存在すると考えられることから、AcINS の分泌顆粒への特異的選別にはCgAが関与しない可能性がある。ところが、この可溶性画分によるAcINS凝集実験を行った結果、弱アルカリ性でカルシウムイオンの存在下で急激に凝集されることが明らかになった。そこで、凝集が分泌顆粒の可溶性分画に含まれる因子により引き起こされること、カルシウムイオンを必要とし、弱アルカリ条件下で起こることが明らかにした。これらの実験結果は哺乳類の調節性分泌機構のグラニン凝集説と類似するものの、幾つのか違いがある。今後、さらに研究を続けることでこれらの違いの原因を明らかにする予定である。
 また不溶性画分(膜分画)には通常可溶性分泌タンパク質であるはずのもう一つの色素結合タンパク質、eCBPが検出された。しかし、 SDS-PAGEではeCBP単独で検出されることから、おそらく膜画分との結合はそれほど強固なものではないと判断された。そこでeCBPと膜画分の結合を調査したところ、8M尿素や6M グアニジンなどの処理により解離することが明らかになった。よってeCBP の膜画分への結合はおそらく分泌顆粒膜に存在する膜タンパク質を介したものと思われる。さらにこの結合はeCBP の分泌顆粒への特異的選別機構と密接に関わると考えられ、現在その解明を行っている。
  
成果となる論文・学会発表等