共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	樹木に特異的な光合成の最適化による環境適応機構
新規・継続の別	新規
研究代表者／所属	長岡高専
研究代表者／職名	准教授
研究代表者／氏名	柴田勝

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	田中亮一	北大低温研

研究目的	多種多様な環境変化にさらされ生育している樹木のストレス耐性機構を明らかにする上で、樹木特異的な環境応答を明確にすることは重要である。このことから、樹木特異的な環境応答を示し、その機構を明らかにするために、樹木に特異的な色素であるα-カロチン（α-Car）に注目した。本研究目的は、高速液体クロマトグラフィーによる色素分析とクロロフィル蛍光による光合成の解析により、α-Carを含めた色素の組成変化が光合成の光利用効率や光捕集機能に与える影響を明らかにすることである。

研究内容・成果	樹木葉に大量に存在するα-carotene (α-Car)は、草本植物の葉片にはほとんど蓄積せず、カロテンとしてβ-carotene (β-Car)が含まれている。この樹木特異的な色素α-Carと他の色素類との関係を調べるために、温度・光条件の異なる環境で生育させたゲッケイジュの葉片の色素組成、クロロフィル(Chl)蛍光の測定を行った。　α-Car蓄積を誘導する環境因子について実験を行った結果、生育条件が弱光・低温ほど、α-Car割合が大きくなる傾向を示したが、至適光強度、至適温度が存在していた。季節的な周期性を示すα-Carを誘導する環境因子として生育光強度、生育温度、UVがあり、多くの外部環境因子に依存していることが明らかとなった。　カロテン(Car=α-Car+β-Car)の変化量は、一定(ΔCar/ΔChl=約0。1)であった。ここで得られた直線は、α-Carとβ-Carの総量が一定であり、α-Carとβ-Carが相互置換して存在することを示唆している。実際、各光化学系の反応中心を単離して調べたところ、α-Carとβ-Carの相互置換を示す結果が得られた。次いで、カロチノイドサイクルにより、Vio-cycle色素(=Vio+Ant+Zea)が増加するが、これらが実際に機能しているかを調べるために、Vio-cycle色素量に対して強光(Vio，　max)と暗処理(Vio， min)でのVio変化量(⊿Vio=Vio，max – Vio， min）)を測定した。その結果、カロテノイドサイクルにより機能的なVioが増加することが分かった。　さらに、これらの色素組成の変化による光合成への影響を調べるためにChlケイ光測定を行った。強光・弱光での量子収率は、生育温度・光強度に関わらずα-Car割合の高いものほど高くなるなど、α-Carによる光利用効率を高めていた。　過剰な光エネルギーを熱に変換する機構としてde-epoxidation反応を伴うVio cycle以外に寄生植物や一部の樹木においてLutein　cycle (Lut ⇔Lx cycle)の反応が働いていることが知られている。α-Carを持つ樹木葉では、Lxが生成しやすく、比較的Lutein cycleが観察されやすくなっており、色素サイクル間の相関も高くなっていた。　これらのことから、α-Carを中心とした複合的な樹木の色素変化により、樹木特異的な環境応答を認めることができた。 [略語：α-Car=α-carotene， β-Car=β-carotene， Vio=violaxanthin， Ant=antheraxanthin， Zea=zeaxanthin， Lut=lutein， Lx=lutein-5，6-epoxide]

成果となる論文・学会発表等