共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

結晶成長時の界面パターンへの溶液の流れと不純物
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 金沢大学総合メディア基盤センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 佐藤正英

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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佐崎元 北大低温研 准教授

研究目的 ある種のたんぱく質を含む水が凝固する際に,たんぱく質が不純物の役割をして,界面の形態を変える。このように,結晶成長時の界面の形態に不純物が影響を与えることはよく知られているが,実際に,不純物が成長界面でどのような振る舞いをするかについては自明ではない。
本研究では,不純物の振る舞いとともに,界面での成長過程がどのように変化するかを調べることを目的とする。特に,結晶界面での不純物の吸着,離脱や拡散に加えて,界面への輸送における不純物の振る舞いの違いにより,界面の形状や成長過程がどのように変わるのかを調べる。
  
研究内容・成果 近年,佐崎らがリゾチーム単斜晶系結晶のステップ速度について観察し,ステップの前進速度のステップ間隔に対する依存性を調べた。この際に,らせん成長丘でのステップ間隔が表面エネルギーから予想されるステップ間隔に比べて50倍程度も広くなっていた。
本研究では,ステップ間隔が異常に大きくなることの原因として,結晶表面に吸着した不純物の可能性を調べた。最も単純な場合として,結晶表面に一度吸着した不純物の拡散や再離脱がないような場合を考え,2次元結晶の臨界核半径がどのように変化するかについて調べた。不純物が異物として働く場合には,結晶分子の固化による化学ポテンシャルの利得の減少させることと,結晶分子と不純物間での界面エネルギーの増加により,不純物の密度に比例して化学ポテンシャルの利得が減少することになる。これが原因で2次元結晶島の臨界核半径が増加することが分かった。
また,ステップ間隔を50倍程度大きくするときにどの程度の不純物が結晶表面に吸着すればよいかについても検討した。実験で用いた溶液中には1.5%程度の不純物が含まれている。ほぼこれと同程度の不純物が結晶表面に付着することで臨界核半径の大きさが50倍程度大きくなることは十分可能であることが分かった。臨界核半径とらせん成長丘におけるステップ間隔は比例するので,臨界核が50倍大きくなることでステップ間隔が50倍程度大きくなることについても説明ができる。このことについては,物理学会において発表した。
上記の説明は,ある大きさの2次元結晶島が出来たときの自由エネルギーの変化から臨界核半径の大きさを見積もる熱力学的な立場からの説明であるが,本研究では,モンテカルロシミレーションを行い,2次元島ができる動的過程についても調べている。最も簡単な場合として,結晶表面での結晶分子および不純物の表面拡散がない場合を考えてモデルを構築した。ある密度で不純物が付着している結晶表面に一様に結晶分子が入射する場合を想定して2次元島が生成する様子を調べている。現在,詳細なデータを収集している段階であるが,成長する2次元島と消滅する2次元島の半径を調べることで臨界核半径をきめることが可能である。さらに不純物が加わることで臨界核の生成頻度の不純物依存性についてもわかる。今後は,不純物が付着した結晶表面でのステップの揺らぎから臨界核半径を求めることを検討中である。
以上をまとめると,本年度は熱力学的の立場から不純物により臨界核半径がどのように変化するかを調べ,不純物の効果からステップ間隔が増加することが可能であることを示した。また,2次元島の生成過程についてのプログラムを構築することに成功した。2次元核の生成過程については,現在詳細な研究を継続中している途中である。
  
成果となる論文・学会発表等 日本物理学会2010年秋季大会講演:Dai Guoliang,○佐崎元A,佐藤正英B,横山悦郎C,古川義純A(中国科学院力学研,北大低温研A,金沢大総合メディアセB,学習院大計算セC),「ステップ前進速度のステップ間隔依存性:リゾチーム単斜晶系結晶上でのその場測定」