共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

樹木年輪の酸素・水素同位体比によるオホーツク海高気圧の長期変動の精密復元
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 名古屋大学環境学研究科
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 中塚武

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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河村公隆 北大低温研 教授

研究目的 オホーツク海高気圧は、複雑な大気-海洋-陸面相互作用によって生じるが、その変動は日本の夏季の気候を支配することで、日本の社会に大きな影響を与えてきた。それ故、その経年・季節変動の実態を過去数百年に亘って復元することは、地球物理学的にも人文社会科学的にも極めて大きな意味を持つ。本研究では、樹木年輪セルロースの酸素同位体比が夏季の相対湿度と高い相関を示すことに着目し、オホーツク海高気圧によって生じる低温・高湿度(=高相対湿度)のヤマセが吹き付ける北東北にて、樹木年輪試料を取得してその酸素同位体比を測定し、オホーツク海高気圧の経年・季節変化パターンの長期変動を復元することを目的とした。
  
研究内容・成果 本年度は、3つの課題に並行して取り組んだ。1)過去数百年間に亘るオホーツク海高気圧の経年・季節変動の復元を可能にする高樹齢の樹木年輪試料の採取、2)膨大な数の樹木年輪試料のセルロース酸素同位体比を、極めて短期間に分析するための新しい分析システムの開発、3)北東北で採取された様々な樹木年輪試料の分析による、実際のオホーツク海高気圧の変動の復元である。
1)については、東北大学植物園の協力を得て、17世紀半ばまで遡ることができる仙台市(仙台城)の倒木杉の年輪円盤試料、及び、同じく17世紀まで遡ることができる宮城県北部加美町の倒木杉の年輪円盤試料を確保することができた。それぞれ十分に年輪幅の広い試料であり、セルロースの酸素同位体比の経年・季節変動の分析から、過去300年以上に亘ってオホーツク海高気圧の変動を復元できる可能性がある。今後、速やかに分析に供する予定である。
2)については、従来、「年輪を年単位或いは季節単位に分割してから、1つ1つ別々にセルロースを抽出して同位体比を測定していた」のに対して、「年輪円盤から木口面に沿って、多数の年輪を含む厚さ1mmの薄板を切り出し、そのままセルロース抽出に供して、その後、セルロース化した薄板を年・季節単位に切り出して、同位体比を測定する」という新しい方法の開発を行った。具体的には、名古屋大学において、同じ試料を新・旧2つの方法でセルロース化したものを、低温研の熱分解元素分析計‐同位体比質量分析計のオンラインシステムを使って比較分析し、「新しい方法では、従来の方法よりも10倍以上、分析速度が速くなる一方で、得られる値は従来と同じである」ことが、確認できた。つまり、今後、従来の10倍以上の速さで分析が進められる展望が得られた。
3)については、19世紀前半まで遡れる青森県の倒木杉の年輪円盤試料1枚、及び、八甲田山系の様々な高度で採取されたブナとオオシラビソの多数の年輪コア試料を対象に、それぞれ過去約200年間、及び50年間分の年輪から、新しい分析手法を用いて、セルロースを抽出し、その酸素同位体比の経年変動を、低温研のシステムを使って分析した。その結果、樹木年輪セルロースの酸素同位体比の経年変動パターンは、異なる個体、異なる樹種間でも高い相同性を示し、気候変動をダイレクトに記録していることが確認できた。同時に、理論的な予想とも合致して、樹木年輪セルロースの酸素同位体比は、当地の夏季の相対湿度や降水量の経年変動と高い負の相関を示すことが明らかとなった。今後、セルロース同位体比の季節変化の分析や、月別気象データとの詳細な相関関係の計算を通じて、「年毎の酸素同位体比が、オホーツク海高気圧の何月の特徴を反映しているのか」、また「どの程度まで詳しく、その季節変動が復元できるのか」等々について、解析を進める予定である。
  
成果となる論文・学会発表等