共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

細胞膜近傍における氷晶形成機構の解明
新規・継続の別 継続(平成17年度から)
研究代表者/所属 東京電機大理工
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 村勢則郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

上野聡 広島大院生物生産 教授

2

金子文俊 大阪大院理 准教授

3

高橋浩 群馬大院工 教授

4

片桐千仭 北大低温研 招へい研究員

5

林正和 東京電機大 研究員

6

古川義純 北大低温研 教授

研究目的  耐凍性の生物は細胞膜の近傍における氷晶形成を制御して身を守っている。したがって、耐凍性の仕組みの解明には細胞膜‐水界面及びその近辺における氷晶形成機構の理解が欠かせない。本研究の目的は、細胞膜近傍において脂質分子集合状態が氷晶生成にどのように影響しているか、また、細胞膜近傍の構造が氷晶生成・成長にどのようにかかわっているかを明らかにし、耐凍性の仕組みを解明することにある。生物の凍結保存への応用も目的としている。
中性子弾性散乱から求めたGB水溶液中の水およびGBの拡散係数の濃度依存性 線虫懸濁液のDSC冷却曲線と対応する線虫体内の凍結速度 
研究内容・成果 これまでの研究から、脂質の種類と集合状態が水の凍結温度、氷晶のサイズ・形状に影響を及ぼすことが明らかになってきた。以下に本年度の研究成果について報告する。
 生体膜を構成するリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)のモデルとして、PCと極性基の構造が類似したグリシンベタイン(GB)を使用して、研究を進めた。GBは吸湿性が強く、水素結合網の発達した液体の水構造を破壊して凍結抑制する可能性が考えられる。そこで、水和構造を明らかにすることを目的に、中性子弾性散乱実験を試みた。その結果、水溶液濃度の上昇と共に、水分子とGB分子の拡散係数の差が小さくなった(Fig.1)。GB分子に水和することは明らかになったが、水構造の破壊を示唆するデータは得られていない。更に測定精度をあげて調べる必要がある。
 生体膜脂質と脂質の構造、および構造変化に関する研究も継続して進めた。ナミニクバエの低温馴化に伴い、膜脂質においてはPCよりもホスファチジルエタノールアミンの割合が高くなった。リン脂質極性基部分の形状の違いが、分子のパッキングし易さを介して、生体膜の流動性制御に関係していると考えられる。脂肪酸鎖末端の一部をフッ素置換したリン脂質の二重膜構造の物性を調べ、置換していないものと比較検討した。また、小胞を調製してこれにバクテリオロドプシン(bR)を導入したところ、部分フッ素化はbRの機能発現に興味深い影響を与えることが推定された。生体膜脂質を構成する脂肪酸はcis-不飽和脂肪酸が多い。FT-IRを使用してCH2横揺れ振動をプローブに用いることにより、不飽和脂肪酸の固相転移時の二重結合周りの構造変化に関して情報の得られることが明らかになった。トリアシルグリセロール(TAG)には脂肪酸部分の立体配置によって光学異性体が存在する。オレイン酸(O)とパルミチン酸(P)からなるTAGについて、光学異性体R-PPOとS-OPPの物性と両者混合系の相挙動を検討した。その結果、R-PPOとS-OPPの相挙動はラセミ体の相挙動と異なることが明らかになった。(R:rectus, S:sinister)
凍結保護物質としてジメチルスルホキシドを添加した線虫(C. elegans)では、植氷して細胞外凍結を引起こしてから徐冷することで細胞内凍結を回避でき、成虫においても凍結保存が可能となった。また、DSC発熱ピークの解析から、線虫の体外および体内凍結を区別できる可能性が示唆された(Fig.2)。
 本研究の遂行に際しては、様々な顕微鏡を用いた氷結晶や細胞凍結の観察が極めて有効であり、DSC測定、X線回折が有効であった。今後も、これらの観測、測定手段を用いて多様な研究を継続し、細胞膜近傍における氷晶形成機構を明らかにしていきたい。
中性子弾性散乱から求めたGB水溶液中の水およびGBの拡散係数の濃度依存性 線虫懸濁液のDSC冷却曲線と対応する線虫体内の凍結速度 
成果となる論文・学会発表等 林、村勢他:線虫Caenorhabditis elegans の成虫ステージにおける凍結保存、低温生物工学会誌、印刷中
林、村勢他:DSCによる線虫Caenorhabditis elegans の凍結過程の解析、低温生物工学会誌、印刷中