共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

X線ラウエ法による氷結晶組織解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大高等教育推進機構
研究代表者/職名 特定専門職員
研究代表者/氏名 宮本淳

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

研究目的 本研究課題は、低温科学研究所に既設されている研究代表者が開発したX線を利用した半自動化された氷結晶組織解析装置を用い、氷床コアや凍土中の氷結晶の結晶方位分布を明らかにすることを目的としている。本装置の高結晶方位測定精度、高測定空間分解能、a軸方位測定可という特長を活かし、国内外における共同研究を推進する。特にこれまで測定困難であった微細氷結晶組織を明らかにする。
  
研究内容・成果 本共同研究の成果は、以下の3つである。
1.亜結晶境界間の結晶方位測定
氷床コア試料の顕微鏡観察により、これまで議論されていた深度よりも浅部において亜結晶境界の分布が確認された。これは氷床内部での結晶組織の成長メカニズムに関わり、氷床の動力学的性質に影響を与える。本研究では特に亜結晶境界の特徴を明らかにするために、南極EDMLコアおよびドームふじコアを用いて、亜結晶境界の分布と境界間の結晶方位分布を測定した。c軸方位のみならず、a軸方位も明らかにしたことにより、結晶学的に完全な方位関係を記述すことが可能になった。その結果、亜結晶境界間の方位関係は、以下3つのパターンに分類できることが明らかになった。A)亜結晶境界は氷結晶基底面に鉛直で1つのa軸を軸にした回転。B)亜結晶境界は氷結晶基底面に平行で1つのa軸を軸にした回転。C)亜結晶境界は氷結晶基底面に平行でc軸を軸にした回転。AとBは傾角粒界、Cは回転粒界であることが明らかになった。なお、本研究はドイツ、アルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所(Ilka Weikusat研究員)と共同で進められた。
2.凍土中の氷結晶(析出氷)の結晶方位測定
帯広畜産大学(武田一夫教授)から人工的に成長させた凍土中の氷結晶(析出氷)試料の提供を受け、結晶c軸方位を測定した。析出氷の粒径は一般的に1 mm 程度と小さく、従来の手法で結晶c軸方位を測定することは困難であったが、本氷結晶組織解析装置を用いその測定に成功している。本研究では特に析出氷成長時の載荷重と結晶方位の関係を調べた。その結果、載荷重が大きい時ほど荷重方向に平行に分布するc軸が増える傾向にあることが明らかになった。本結果は、平成22年度帯広畜産大学卒業論文(「荷重条件下で析出した氷の結晶構造の解明」菅原大地)としてまとめられた。
3.氷床コア氷結晶の微細構造
本研究は北見工業大学(堀彰准教授)との共同研究として進められた。南極の氷は氷床の流動に伴い塑性変形を受けながら、数10万年スケールの長い年月を経て形成された地球上最古の氷であり、通常の氷とは異なる構造の特徴がある可能性がある。その特徴のひとつとして微細結晶構造に注目した。測定にはX線回折法を用いたが、反射型測定(Bragg 反射)により行うため、光学系の幾何学的な制限がある。そのため、個々の結晶粒毎に測定可能な反射は異なるので、あらかじめ各結晶に対してX線回折測定が可能な反射面を決定する必要がある。そこで、本氷結晶組織解析装置により、結晶方位を測定し、X線回折測定可能な反射面とその方向を決定した。研究の結果、深さにともなって特にc軸方向に格子状数が小さくなり、転位密度にも差が生じることが明らかになった。
  
成果となる論文・学会発表等 A. Miyamoto, I. Weikusat and T. Hondoh. Complete determination of ice crystal orientation using Laue X-ray diffraction method. Journal of Glaciology, 57(201), 103-110, 2011.
I. Weikusat, A. Miyamoto, S. H. Faria, S. Kipfstuhl, N. Azuma and T. Hondoh. Subgrain boundaries in Antarctic ice quantified by X-ray Laue diffraction. Journal of Glaciology, 57(201), 111-120, 2011.
I. Weikusat, A. Miyamoto, S. H. Faria, G. M. Pennock, N. Azuma, T. Hondoh, M. R. Drury, S. Kipfstuhl. Dislocation Activity in Antarctic ice. 12th International Conference on the Physics and Chemistry of Ice, Sapporo, September 2010.