共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

原始惑星系円盤における低温物質進化と惑星形成の相互作用
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東北大理学研究科地学専攻
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 三浦均

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

塚本勝男 東北大・理 教授

2

中本泰史 東工大・地惑 准教授

3

長沢真樹子 東工大・グローバルエッジ研究院 特任助教

4

木村勇気 東北大・理 助教

5

山本哲生 北大低温研

6

田中今日子 北大低温研

研究目的 本研究の目的は,原始惑星系円盤での固体物質進化を明らかにすることである。低温研一般共同研究である「原始惑星系円盤における低温物質進化(代表:中本泰史,平成17〜19年度)」により,円盤内で発生した衝撃波が引き起こす加熱現象によって氷やシリケイトなどの固体微粒子が超非平衡状態で結晶化する可能性が指摘された。これを受けて,「原始惑星系円盤における低温結晶成長過程(代表:塚本勝男,平成20〜21年度)」により,固体微粒子が結晶化する条件が定量的に求められた。本共同研究では,低温物質進化に関わるこれまでの研究に加え,46億年昔の原始太陽系星雲における惑星形成と低温物質進化との関連について議論する。
  
研究内容・成果 以下の4班に分かれて基礎研究を行ない,研究成果を元に北大低温研にて研究打ち合わせを行なった。

・ダスト加熱現象の数値解析班(中本・三浦)
惑星形成過程において,微惑星が楕円軌道化すると,太陽周囲を円運動するガス円盤との間に相対速度が生じる。離心率が0.3程度を越えると,この相対速度が音速を越えてバウショックが発生する。衝撃波通過後のガスと微惑星表面の間の熱輸送をモデル化し,微惑星表面温度を評価した。また,微惑星周囲のガスの流れや密度・温度プロファイルを,多次元数値流体計算によって求めた。その結果,太陽から2 AUの位置において,微惑星の離心率が0.6になると,微惑星表面温度が約1000 K程度まで上昇することが分かった。この温度は,主に珪酸塩で構成される岩石微惑星を蒸発させるには低すぎるが,氷微惑星に対しては顕著な蒸発を引き起こすだろう。

・ダスト蒸気からの結晶成長理論班(山本・田中)
バウショックによって加熱された氷微惑星が表面から蒸発することにより,惑星半径が小さくなり,微惑星の成長が妨げられる効果について検討した。その結果,100 kmサイズの氷微惑星は,中心星から5 AUの位置において,離心率が0.2以上であれば,100万年以内に蒸発することが分かった。微惑星の離心率は,原始惑星や木星型惑星と重力相互作用をすることで非常に大きくなる。従って,氷微惑星の蒸発現象は,木星型惑星や地球側惑星の形成,木星大気の重元素量,限界コア質量,円盤内の酸化還元状態など,様々な対象に影響を及ぼすであろう。

・惑星形成とガス円盤の相互作用(長沢)
原始太陽系星雲における惑星形成過程について,微惑星の軌道進化,特に離心率に関する検討を行なった。惑星形成初期においては,原始惑星の形成により,その周囲の微惑星の離心率が原始惑星の重力散乱によりはね上げられて上昇する。1 kmサイズの氷微惑星は,中心星から5 AUの位置において,離心率が1を越え,放物運動になるほどに軌道が歪むことが分かった。また,木星型惑星が形成すると,その相互作用(共鳴)により,微惑星離心率が増加する。特に円盤ガスが減少するに伴い,共鳴位置が4 AUから1 AU付近まで移動し,広い範囲の微惑星の離心率を0.1以上まで大きくすることが分かった。

・ダスト蒸気からの結晶化実験班(塚本・木村)
ダスト蒸発・凝縮実験を実施し,蒸気中で核形成を経てナノ粒子が凝縮する様子を干渉計により“その場”観察した。Ar-O2混合ガス中で酸化タングステンを蒸発させた場合,核形成が生じたときの蒸気の過飽和度は約6.6x10^6もの高い値になっていることが明らかとなった。また,古典的核形成理論に基づいて微粒子の界面エネルギーを求めたところ,1.38x10^3 erg/cm^2となった。これらの値は,宇宙空間において固体物質がどのような環境で凝縮したのかを知る際に重要となる。
  
成果となる論文・学会発表等 Y. Kimura, H. Miura, K. Tsukamoto, C. Li, and T. Maki, J. Crys. Growth 316, 196 (2011)
H. Miura, E. Yokoyama, K. Nagashima, K. Tsukamoto, and A. Srivastava, J. Appl. Phys. 108, 114912 (2010)
H. Nada, S. Zepeda, H. Miura, and Y. Furukawa, Chem. Phys. Lett. 498, 101 (2010)
A. Srivastava, Y. Inatomi, K. Tsukamoto, T. Maki, and H. Miura, J. Appl. Phys. 107, 114907 (2010)
H. Miura, K. K. Tanaka, T. Yamamoto, T. Nakamoto, J. Yamada, K. Tsukamoto, and J. Nozawa, Astrophys. J. 719, 642 (2010)
K. K. Tanaka, T. Yamamoto, and H. Kimura, The Astrophysical Journal 717, 586-596 (2010)
T. Yamamoto, T. Chigai, H. Kimura, and K. K. Tanaka, Earth Planets and Space 62, 23-27 (2010)
K. Wada, H. Tanaka, T. Suyama, H. Kimura, and T. Yamamoto, The Astrophysical Journal, 702, 1490-1501 (2009)
Y. Kimura, Y. Miyazaki, A. Kumamoto, M. Saito, and C. Kaito, The Astrophysical Journal 680, L89-L92 (2008)