共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

有機分子・高分子薄膜表面における氷の疑似液体層に関する赤外分光法による研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪大学理学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松浦良樹 元大阪大学蛋白研 元教授

2

古川義純 北大低温研 教授

3

片桐千仭 北大低温研 招へい教員

研究目的 結晶の表面融解現象は、融点近傍における多くの結晶表面で見出されている。特に氷結晶は表面融解を起こす物質としてよく知られており、その表面層は疑似液体層と呼ばれている。この氷の疑似液体は、氷の晶癖変化や結晶成長機構などと深い関係があるばかりでなく、最近では氷結晶表面の触媒効果にも繋がりがあると考えられている。氷と界面を形成する物質が、疑似液体層の挙動に対してどのような影響を与えるかについてはまだ系統的には調べられていない。そこで、本研究では化学的性質を設計した基板を準備し、その基板に接触した氷の挙動を赤外分光法で調べることにより、疑似液体層に対する界面の影響を明らかにすることを目的にしている。
  
研究内容・成果 氷表面の非常に薄い疑似液体層に関する情報を選択的に得るために、先ず最初に以下の方針で、実験を計画した。
1. 赤外ATR分光法を利用することにした。この手法では高屈折率の赤外透過材料でできたプリズムを氷表面に密着させて、プリズムと氷の界面で赤外光を全反射させる。この際にプリズム表面から約1-2μm程度氷層へ浸透したエバネッセント波により、氷結晶の表面部分の情報を選択的に得ることができる。ZnSeのプリズム(入射角60°)とその表面に接触した試料層を二枚のペルチェ素子の間にサンドイッチして、冷却と温度制御を行うことにした。
2. このプリズムの表面を化学的に分子修飾をし、その分子修飾した表面の性質の違いにより、氷の疑似液体層の挙動がどのように変化するかを調べる。このプリズム表面の修飾層は薄く、かつ耐久性があることが必要である。そこでプリズム表面に金をスパッタリングし、その表面金層に対しるアルカンチオール処理により、有機単分子膜を形成を行う。このアルカンチオールのメチル基末端部分を適当な官能基で置き換えることにより、プリズム表面層の化学的な性質の制御をおこなう。
 
 この方針で研究を進めたが、この手法では良好な赤外スペクトルを得ることが難しいことが明らかになった。アルカンチオールと反応してプリズム表面に単分子層を固定する役割をもつ金膜は、非常に薄い場合においても、プリズム表面における赤外エバネッセント波の形成に大きな障害になることが明らかになった。

 これを解決するために、プリズムを用いない赤外高感度反射法の活用を検討したが、気相中の水蒸気の影響を受けやすい等の問題があった。最近になって、シリコン基板に対して直接分子修飾するという解決法にたどり着いた。シリコン基板は、ZnSeと同様に赤外透過性があり、赤外ATRプリズムとして活用されている。ZnSeより長波長領域での赤外透過性に劣るが、水および氷の測定に関しては全く支障がない。最大の利点は、金のような支持層を形成する必要がなく、直接プリズム表面のSi原子との間にSi-C結合を形成することにより、その表面に単分子層を形成できる。

 この手法の導入により、ZnSeプリズムをSiプリズムに変更することで、ATR法を利用した疑似液体層の研究を行うことについて目処がついた。今後は、Siプリズム表面上に形成する分子層の違いが与える影響について系統的に調べていく予定である。 
  
成果となる論文・学会発表等