共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

積雪内部に生息するメタン酸化細菌の物質循環への寄与の推定
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山梨大学大学院医学工学総合研究部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 岩田智也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小島久弥 北大低温研

2

福井学 北大低温研

研究目的 生態系の物質循環を駆動する微生物の活性は、低温条件で低下する傾向にある。しかしながら、寒冷圏の厳冬期においても、積雪に覆われた土壌や積雪内部では雪の断熱効果によって微生物活性が維持されていることが示されている。また、こういった極限環境の微生物活性は低いものの、積雪期間の長さから、年間を通した物質収支には大きく寄与していると言われている。しかしながら、積雪内部の微生物活性を現場で調査することには多くの困難が伴い、その研究は進んでいない。本研究では、湿原を覆う積雪の内部に生息するメタン酸化細菌を対象とし、その活性の大きさと物質循環への寄与を見積もることを目的とする。
  
研究内容・成果 野外調査は、平成22年4月末-5月初旬に群馬県の尾瀬沼において実施した。凍結した湖面に積もった雪をコアサンプラーにより採取し、深度別に切り分けて密閉保存した(計6層×2コア試料)。積雪試料は常温で溶かし、高純度ヘリウムで作成したヘッドスペースと気液平衡状態にした後、気相部分をガラスバイアルに採取した。同時に、湖面直上の大気試料もガラスバイアルに採取した。積雪および大気中のメタン濃度はGC-FIDで測定し、メタンの炭素安定同位体比(per mil)はGC/C/IRMSにて計測した。
 解析の結果、積雪内部のメタン濃度は鉛直方向に大きく変化することを明らかにした。コア底部の堆積物中でメタン濃度は430~650µMと最も高く、それより4-10cm上部では8.0~9.1µM、19-25cm上部では0.16~5.2µMと、底層から上層に向かうにつれて指数関数的に減少していた。また、最上層部の濃度は0.15~0.22µMにまで減少した。そこで、メタン濃度の鉛直変化をもたらす要因を検討するために、δ13C-CH4と比較した。その結果、最も濃度が高い堆積物中のδ13C-CH4は-56.7~-54.2‰の値を示し、酢酸を基質としたメタン生成が底泥で生じていると考えられた。また、堆積物から40cm上方までのδ13C-CH4も-50~-55‰前後と顕著な変化はみられなかった。このことは、堆積物直上でみられたメタン濃度の急劇な減少は、大きな同位体分別を伴うメタン酸化ではなく、主に拡散によるものと考えられた。一方、堆積物から50cmほど上の上層部になると、δ13C-CH4は-26~-23‰と大幅に上昇していた。積雪の上層部には大気由来のメタンも含まれている可能性もある。しかしながら、大気CH4のδ13Cは-46.3~-47.0‰と低く、大気CH4と堆積物CH4の混合モデルでは観察された高い同位体比(-26 ~ -23‰)を説明することはできない。そのため、メタン酸化細菌によるCH4消費が積雪の上層部で活発に生じているものと考えられた。
 本研究により、積雪中のメタンの動態には底泥部におけるメタン生成と積雪中におけるメタン酸化が大きく関与している可能性を明らかにした。尾瀬沼の積雪中からはメタン酸化細菌が毎年検出されており、冬期における大気へのメタンフラックスはメタン酸化細菌により抑制されている可能性がある。また、昨年度(平成21年)の調査では、メタン濃度の減少とδ13C-CH4の上昇は堆積物直上でのみ生じており、今年度の結果とは大きく異なっている。このことは、積雪内部における微生物活性の分布はダイナミックに変化しており、その結果としてCH4の消費量も空間的に変化するものと考えられた。
  
成果となる論文・学会発表等