共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
ストレス下での昆虫自然免疫調節機構 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 佐賀大農学部 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 早川洋一 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
都築誠司 | 佐賀大農学部 | 特別研究員 |
2 |
松本均 | 佐賀大農学部 | 科学研究支援研究員 |
3 |
落合政則 | 北大低温研 |
研究目的 | 昆虫は脊椎動物のような獲得免疫系を持たず、自然免疫系のみで外界からの病原微生物の侵入・感染から身を守っている。自然免疫反応には主に細胞性免疫と液性免疫が存在し、共に相互に影響し合って生体防御に当たっている。本研究では、獲得免疫系を持たない昆虫を用いて、この異物侵入非依存的な自然免疫活性調節機構を明らかにすることを最終目的に研究を遂行しており、今年度は、特に、昆虫サイトカインであるGrowth-blocking peptide(GBP)による細胞性免疫の活性化機構に焦点を当て、ストレス依存的な自然免疫活性変動への細胞性免疫の影響について明らかにする。 |
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研究内容・成果 | 今年度は、特に昆虫サイトカインGrowth-blocking peptide (GBP)による細胞性免疫に焦点を当て解析を行った。GBPは、血球細胞の一種プラズマ細胞を活性化し、血球凝集塊形成反応や異物表面への付着を誘起する。アワヨトウGBPの構造―活性相関については様々な変異体GBPを用いて詳細な解析がなされているが、GBPによるプラズマ細胞活性化の情報伝達経路についてはほとんど分かっていない。本研究によって、私達は血球細胞のGBP受容体の性質を明らかにすると共に、分子量77 kDaの新規GBP受容体アダプタータンパク質を発見した。P77 cDNAをクローニングし、一次構造を決定した結果、細胞膜を一回貫通する膜タンパク質であることが予想された。さらに、モチーフ検索により、その細胞内領域にはSH2/SH3ドメイン結合モチーフやimmunoreceptor tyrosine-based activation motif (ITAM)様ドメインが存在することが明らかになった。これら同定されたドメインは,いずれも哺乳類の免疫関連受容体の多数のアダプター因子内に報告されているものである点は興味深い。P77はGBPと直接結合能力を持たないが、GBP刺激によって血球の細胞内領域チロシン残基は速やかにリン酸化される。P77のチロシン残基リン酸化は、血球細胞をEnterobactor cloacae や Micrococcus luteusといった細菌で刺激した場合にも観察されるが、こうした病原微生物刺激によるプラズマ細胞のP77チロシンリン酸化は、血球から放出されたGBP前駆体が同時に分泌されるプロテアーゼによってプロセシングされて生じた活性型GBPによって誘起されるものであることを実証した。さらに、GBPによって刺激されたプラズマ細胞ではインテグリンß1鎖のチロシンリン酸化が確認されたが、このチロシンリン酸化はP77のRNAiによって顕著に抑制され、さらに、プラズマ細胞の突起伸長活性化反応も阻害された。また、こうしたRNAiによってP77発現が抑制されたアワヨトウ幼虫では、グラム陰性菌Serratia marcescensに対する感受性が顕著に上昇した。以上のような一連の研究結果より、プラズマ細胞のGBP細胞内情報伝達にはGBP受容体アダプタータンパク質P77が必須であり、P77を介するインテグリン分子のチロシンリン酸化がGBPによるプラズマ細胞活性化に不可欠であることが証明できた。 今年度は、GBPによる細胞性免疫活性化のシグナル伝達系の一端を明らかにすることができ、今後、さらに液性免疫への血球活性化の影響について解析を進める手掛かりを掴んだ。 |
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成果となる論文・学会発表等 | Oda, Y., Matsumoto, H., Kurakake, M., Ochiai, M., Ohnishi, A., and Hayakawa, Y. (2010) Adaptor protein is essential for insect cytokine signaling in hemocytes. Proc. Natl. Acd. Sci. USA, 107, 158862-15867. |